「何にせよ、早いとこ、デマだって証拠上げないと、拡散するのはあっという間だろうし」
買い物を済ませて助手席に乗り込んだ良太はぼそりと言った。
「確かに。だが、どんなネタか知らないが、アスカさんが江藤と二人で会うような時間はないことは、いくらでも証明できる。俺が部屋を出てから彼女が部屋を出るようなことがないのは防犯カメラがあるし、コンシェルジュがいる」
秋山はエンジンをかけてスーパーを出た。
アスカがセキュリティを考えて今のマンションに越したのは三年前になる。
正確には秋山が引っ越させたのだが、以前は祖父である洋画家中川幾馬と二人で碑文谷にある自宅に住んでいた。
父親は京都の大学教授で大抵両親二人は京都にいるため、警備会社とも契約をしているものの、祖父が出かけている時は一人なので、それを秋山は懸念したのだ。
良太も今のマンションにアスカが越したことは間違いはないと思う。
今どき男であれ名のある俳優がストーカー被害に遭うことはいくらもある。
こちらもそろそろ最終回を迎えるが、ドラマ『検事六条渉』で主演の六条を演じる山内ひとみのほぼ相棒的存在である刑事四宮を演じているのは人気実力ともに上向きな天野右京だが、なんとなく誰かに見られている気がすると言っていて、以前住んでいた三軒茶屋のマンションから最近青山のセキュリティがきっちりしているマンションに引っ越した。
そのあとに判明したのだが、どうやら熱狂的な女性ファンがストーカーもどきに付け回していたという。
「アスカさん、ストーカーとかいませんよね?」
ふと、天野の一件を思い出して良太は聞いた。
「ストーカー? いや、そこは俺もチェックしているから今のところはいないと思うが」
「や、ちょっと、天野さんがストーカーされてたってことがあって、その手の輩がでっちあげるとか、ないとも言えないから」
「それはないとは言えないが、アスカさんじゃなければ江藤のストーカーってこともあり得るな」
「江藤さん側か」
良太が頷いた時、ポケットで携帯が鳴った。
「江藤も身に覚えがないってことで、事務所もデマで押し通すらしい」
工藤は江藤の所属する佐川事務所に小田と出向いたという。
「所長の佐川も寝耳に水だと怒りまくっていたが、江藤は脛に傷持つ身だから余計だろう。表には出ていないが、二年ほど前、若手のモデルと不倫沙汰で、ようやく妻と和解したって時に、こんなデマが流れて下手に藪をつつかれると、モデルの件も明るみに出る可能性があるんで戦々恐々だ」
「ひえ、そうなんですか? そんな人とデマでも拡散したら、アスカさんにも影響が出ますよ」
面倒な懸念材料が増えて良太は眉を顰めた。
アスカでなくても、そんなオヤジ、冗談じゃないと良太は思う。
電話を切ると、「工藤さん、なんて?」と秋山が聞いた。
良太が江藤の話をすると、「ったく、冗談じゃないオヤジだな!」と秋山らしからぬ言い方で憤慨した。
佐川事務所も青山プロダクションと足並みを揃えて、身に覚えがないデマに対しては法的処置を取ることで一致したが、いずれにせよ蓋を開けてみなければ、どうなるかわからない。
良太と秋山が万里子と井上の家に着いたのは十時を回った頃だった。
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