夢見月14

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 ぐるりと塀が囲み、真新しい門戸に辿り着くと、良太は家の中にいるはずの千雪の携帯を鳴らした。
 今、開ける、と千雪が返事をすると、門が内側に開いた。
 雑木林が周囲を覆う中、年季の入った洋風の建物が現れ、秋山は玄関に車をつけた。
「軽井沢の綾小路さんとこみたいだ」
 車を降りた良太が言うと、「売りに出されてた資産家の家を買ってリノベしたって話です」と秋山が答えた。
「アイス、食べたい~」
 良太が袋からアイスクリームのパックを取り出したのを見て、リビングで千雪と映画を見ていたらしいアスカがすかさず言った。
 いつもなら秋山が苦言を口にするところだが、今夜に限っては何も言わなかった。
 リビングには真新しい結婚式の写真が飾られていた。
 アスカらに新居を明け渡してそれぞれに海外にいる井上と万里子は、かなり前に籍は入れていたが、式を挙げておらず、親兄弟からせめて式くらい挙げたらどうだと再三言われていた万里子は、二月のオフを利用して結婚式と披露宴を済ませた。
 断固田舎での式を拒否し、仕事の関係者を招待するという理由で、万里子は家族や親せきを東京に呼んだのだが、一流ホテルの宴会場にもかかわらず田舎の悪癖で、酔いに任せて近くの女性グループに酌をさせようとした伯父は、女性グループに無視されたのを怒って喚き散らし始めたところを、甥二人に阻止され、宴会場からつまみ出される羽目になった。
 このことを怒った万里子が山口の家にも伯父を出禁にしたらしいとは良太も後で聞いた話だ。
「よりによってひとみさんやアスカさんのテーブルでしたからね、万里子さん、伯父さんには二度と会わないとかってめちゃ怒ってましたよ」
 秋山は苦笑しながらその日のことを思い出した。
「満を持しての万里子さんの披露宴でしたしね、ひとみさんも悪口雑言も返さずよく堪えましたよね。ドラマの成果でしょうか」
 良太はちょっと小首を傾げながらひとみを思い浮かべた。
「今や大御所と言われる俳優だし、一般人下手に相手にしたらまずいでしょ。でも確かにドラマの六条渉の静かな凄みというか、迫力が乗り移ったみたいだね」
 秋山の説明に、「ドラマやってる時ってなりきってるし、もともとひとみさん、怒ると怖いわよ」とアスカがアイスを食べながら言った。
「ひとみさんのイメージで書いたけど、何や、昔から六条渉やったみたいやん、ひとみさん」
 と、いつの間にか千雪もアイスを食べている。
「あ、俺も食べる」
 良太もアイスに参戦してミントチョコを三人で食べながら、アスカがドラマの撮影シーンを面白おかしく話すのに、みんなで笑い、夜は更けていく。
 四人はどこか落ち着かない夜をやり過ごし、やがて朝を迎えた。
 アスカだけ客室を使い、後の三人はリビングのソファで目を覚ました。
 秋山が先に置きだして、パンとコーヒー、ヨーグルトやサラダをテーブルに用意して皆を呼んだ。
 はっと我に返ったように携帯を見ようとした良太を制して、「ググるのは朝飯のあとにしようよ」と秋山が言った。
「アスカさん起こしてきますから、パン焼けたら皿に取って、コーヒーもどうぞ」
 秋山はまだ寝ぼけ眼の千雪と良太にそう言うと、二階へと階段を上がって行った。

 


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