良太はスポンサーとの打ち合わせが丸の内に十時となっているため、まだ半分頭が冷めやらぬ千雪をジャガーに乗せて万里子の家を出てから首都高に乗り、外苑ICで降りると、外苑東通りから網代通りへ走り、千雪をマンション前まで送り届け、それから丸の内へと向かう。
八時半には出たものの、目指す安田不動産ビルに着いたのは九時四十五分、ギリだった。
通された会議室で広報部長を待ちながら、良太は今朝のアスカのようすを思い起こしていた。
朝食をさっさと済ませて気になっていたネットを見ると、文化芸能の記事に対して思った以上の反応を見せ、早朝からのテレビの情報番組では、中川アスカ、江藤巧不倫報道のスクープ記事が筆頭に取り上げられていた。
「ねえ、これって、あたしが人気があるから名前が先なの?」
サラダをつつきながらアスカが誰にともなく言った。
昨夜いい加減騒いだので、想定内の進行にはさほど興味がわかないらしい。
「人気女優と大御所俳優ってなってるから、そうなんでしょうね」
良太もコーヒーを飲みつつぼそりと答えた。
番組ではSNSの反応や町のインタビューなども交えてコメンテーターがいかにもなことを言っている。
『そういう人だと思わなかった!』
『中川アスカってもっとビシッとした感じで、不倫とかイメージなかったのに!』
『幻滅!』
『もう、中川の出てるドラマみたくない!』
SNSの反応を拾って、キャスターが読み上げる。
似たような場面が半年ほど前にもあった。
こちらも人気のある俳優同士の不倫沙汰で、双方ともCM契約が切られ、決まっていたドラマも降板という一途を辿った。
「またかよ、って感じですね」
何とか評論家の男性コメンテーターがにやけながら言った。
「今度は大御所ですからね」
そんなセリフが良太は癇に障る。
最近、ちょっとベテランだとやたら大御所の大安売りで、昔の大御所俳優とは威厳が違うような気がしてならない。
「江藤って大御所なん?」
千雪がダイレクトに聞いた。
「まあよく顔を見るアラフォー俳優とか、とりあえず大御所って言ってるようですね」
秋山が解説する。
「あと、親が誰々、とか、何とかの一つ覚えみたいなキャッチばっか。それしかないんかいって思いますよ」
少し不機嫌そうに良太が言った。
「そのうち政治家並みに二世三世ばっかになるんじゃないですか」
「良太も工藤さん並みの皮肉言ってるし」
アスカが笑う。
「だから工藤さん持ってくるのやめてくださいってば!」
「そら、しゃあないわ。秘蔵っこやもんな」
良太の抗議に千雪までが揶揄する。
「昨今、確かに自分の子供を売り出すのが流行ってますね」
秋山が冷ややかに言った。
「誰の子供であれ、実力がある者が淘汰されるだけですよ」
それはそうなのだろうが、名のある親なり家族がいると、それだけでチャンスに近くなるということだ。
案外アスカが落ち着いていたので、良太は少し安堵したが、既に双方の事務所は事実無根の報道に対して告訴も辞さない、という姿勢だとキャスターが言うと、テレビ画面の中はコメンテーターのああでもないこうでもないという言い争いの様相を呈していた。
やはり不倫となると、家庭を壊しただの、妻子が可哀そうだの、どうしても女性側が叩かれる対象になっている。
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