今朝がた、青山プロダクション代理人として小田弁護士が、文化芸能の記事は事実無根であり、告訴も辞さないとはっきりインタビューに答えていたので、マスコミが会社に押しかけるようなことはなかったのだが、良太が車から降りた時、どうやら会社の周りに数人マスコミ関係者だろううろついているのが視界の隅に見えていた。
動画のことが気になって足早にオフィスに滑り込んだので、どういう連中がいるのか確かめようもなかったが、こんな日は出前でも取ってもらえばよかったな、と良太は今になって思う。
鈴木さん、あいつらに捕まったりしなければいいけど。
とはいえ、良太が余計な心配をする必要もないほど、鈴木さんはマスコミをあしらうのがうまいのだ。
「あら、皆様ご苦労様です」
インタビュアーに質問されてものんびりとそんな挨拶をして、「アスカさん、ですか? あら、何かありましたの?」なんていつも以上にゆっくりとした口調で、逆に聞き返したりして、すぐにでも何かネタが欲しいばかりの連中は、そのスローさにめげて、早々に離れていくのだ。
毒にも薬にもなりそうにない、にこにこと対応する品のいいアラフィフ婦人だが、反社会勢力染みた人間やどんな人気俳優を前にしようと、動ずることのない実はこの会社の主のような存在だとは、近しい人間ならよく知っているのだが。
ただし、宇都宮に関しては別格のようで、良太の妹の亜弓とテンションは変わらない。
「え、これ?」
良太は既にアクセス数が半端じゃない動画を見つけた。
「何だよ、これ~!」
アスカと江藤が腕を組んで、仲睦まじそうに夜の街を歩いているのだ。
「どういう、ことだよ?!」
思わず良太はパソコンのモニターに向かって声を荒げた。
まさか、とうっかり信じ込みそうになった良太は、はたと画像を睨みつける。
アスカに江藤と会ったりするような余裕はないはずだと秋山も言っていた。
だったらこれはいったい何だ?
「フェイク動画?」
だから加藤に調べさせろと工藤は言ったのだ。
と、その時、携帯が鳴った。
「ウソだよね? アスカさんが…!」
「直ちゃん」
青山プロダクションとも取引のあるデザイナー佐々木の事務所の池山直子だった。
アスカとも仲がいいが、今日のネットやテレビの騒ぎに驚いて、良太に連絡してきたらしい。
「心配でアスカさんにラインしようかと思ったんだけど」
「もちろん、デマだよ、あんなの。身に覚えがない記事を書かれたんで、うちとしても法に訴えるつもりだけど、デマでもこんな風に拡散されてしまうと、ほんと冗談じゃ済まないよ」
何よりアスカの精神的苦痛を考えると計り知れないものがある。
ここまでするとはいったい何者の仕業なんだ?
「そうだよね! 法的手段を取るにしても、文化芸能に記者会見させてハッキリ謝罪させないとだよ!」
直子も良太の怒りが移ったかのように声を大にして喚いた。
俳優というある意味人の好き嫌いでその地位が左右されるような仕事では、確かに法に照らしただけでなく、あれはデマだったという事実を報道させたりしなければ、次がないかも知れない。
特にCMの仕事などにはそれでもしばらく影響が残るだろう。
back next top Novels
にほんブログ村
いつもありがとうございます
