「さすが、鈴木さん」
良太はぼそりと言って大テーブルの弁当を袋から取り出した。
「特製そぼろ弁当だ!」
鶏肉とたまごのそぼろにほうれん草が彩りよく並ぶ三色弁当は良太の好きな一品だ。
近くにある『まるねこ』という弁当屋は、どれもがボリュームがあって美味くてリーズナブルで鈴木さんや良太の御用達である。
「美味っ!」
「ほんと、いつにもまして美味しいわねぇ」
美味しいものを食べている時だけは、面倒なことも何もかも忘れられるひと時だ。
二人とも食べ終えてお茶を飲みながら、そろそろ裏の桜も蕾が付き始めたのよ、そうですねえ、などとしばし和む。
「お花見の頃には、元のアスカさんにもどってるわよね~」
「もちろんですよ~」
といいけど、と良太は心の中で思う。
「お花見といえばアスカさんだものね」
鈴木さんがそんな風に言うと、すんなりそうなりそうな気になってくるから不思議だ。
だが、ことはそう簡単には行かなそうだと、それからネットを確認したり、テレビをつけて情報番組を見て、良太は知らずため息をついた。
「決定的ですね」
江藤とアスカが夜の街で腕を組みながら親密そうに歩いている動画が流れると、番組のコメンテーターがしたり顔でMCに向かって頷いた。
「さっきまでは信じてたんですけどね、中川アスカのこと」
隣に座る何とか評論家の女性も難しい顔をした。
「気風の良さとかカッコよかったり、物事をはっきり言うけど、ウソのない人だと思ってたんですけど、残念です」
頷きたくはなかったが、あらためて動画を見ていた良太さえ、一体どういうことだよ! あれは! と画面を睨みつけた。
「加藤から連絡あったか?」
ドアが開いたと思ったら、工藤がそう言いながら入ってきた。
「あ、お帰りなさい」
振り返った良太は、険しい顔の工藤がいつになく疲れているように見えた。
「俺も待ってるんですけど、まだ、連絡なくて」
「そうか」
工藤は奥の自分のデスクに行くと、緩慢に腰を下ろした。
しばし何か考え事をしているようだったが、工藤は徐に受話器を取った。
「俺だ。何かわかったか?」
良太はそのようすを見ていたが、相手がおそらく小田だということは見当がついた。
やがて渋い表情で受話器を置いたところを見ると、あまりいい情報はなかったようだ。
「どうぞ」
「ああ、ありがとう」
鈴木さんが工藤と良太にもコーヒーを入れてくれた。
「三時の便で札幌だ。五時過ぎには着く。加藤から何か言ってきたら知らせてくれ」
「わかりました。気を付けて」
工藤はコートを掴み、たったかオフィスを出て行った。
北海道でのドラマロケはまだ続いていたが、忙しいスケジュールを縫って工藤はアスカのために一旦東京に戻ってきたのだ。
仕事のことなら疲れなど気にせず、怒号を振りまいているはずだが、人のことになると、近しい人間が苦しんでいるならなおさら、工藤は心身を削るのだ。
制作会社の猪野の時もそうだった。
良太は以前猪野のことできつい顔をしていた工藤を思い出した。
「アスカさん、大丈夫ですか?」
アスカの件が報道されるとドラマの制作陣に同行している森村からはすぐに連絡が入ったし、ロスアンゼルスで仕事中の山内ひとみからもアスカを心配して良太に連絡を入れてきた。
「ったく、アスカが江藤のジジィなんかとどうにかなるはずないじゃない!!」
「ジジィってひとみさん……」
江藤はひとみより一つか二つしか違わない、人気イケオジランキングなんかでは常に上位に入る人気がある。
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