「そういえば、今日は背後霊はどうしたんです?」
腹が減っていたのと弁当の美味さにしばし言葉も忘れてひたすら箸を動かしていた二人だが、ようやく食べ終えてお茶を飲み、一息ついた良太が思い出したように聞いた。
「学会で名古屋や」
こちらもあらかた食べ終わり、お茶を飲むと、ぼそりと答えた。
「それで原稿はあがったんですか?」
「あがってたら、ここで弁当いただいてまったりしてないわ」
「なんですか、それ。普通逆でしょうが」
良太は苦笑いした。
「それより良太は珍しいやん。いつも大抵出払ってるのに」
「ってか、うちの社員ですかっての」
良太は一つ息を吐くと、「今日は台風の目みたいなもんですよ」と言ってお茶を飲む。
「たまたま相手の都合で一日空いたんで、たまってたデスクワークやってたとこで」
「空いたんやったら休めばええやろ。社長のワーカホリックまでマネせんでも」
千雪の言葉に反応しそうになって、良太はかろうじて抑える。
「今日を逃したらいつできるかわからないし。それより、ちょうどいいんで、例の弁護士シリーズと六条渉のコラボ、ペンディングになってるキャスティング、やっちゃいましょうよ」
良太の提案に千雪はムッとした顔で「俺が今、どないな状況にあるかわかるやろ。執筆に詰まって四苦八苦しとる人間に、血も涙もないこと言いなや」などと愚痴る。
「そういう時は一旦問題から切り離すのがいいんですよ」
「素直で一直線の良太ちゃんが、すっかり業界に染まってしもて情けない」
首を振る千雪に「はい、はい。口八丁にはほだされませんから」と言いながら、良太はテレビをつけた。
「あれ、やりましょう。CMとかに出てる俳優さん、この人って思ったら言ってください」
「また、性懲りもなく、こないだそれでえらい目に合うたくせに」
「結果的に本谷さんで大成功だったからいいんですよ。ほら、CM入りますよ」
ちょうどお昼の情報番組の時間で、スポンサーのCMが流れ始めた。
「しっかし、茶道家元のお家騒動って、家元のお嬢様、誰が見ても読んでも、五所乃尾理香さんそのものですよね? もう俺、ほんとキャスティングでこんな迷ったことないっすよ。読んでも読んでも理香さんしか頭に浮かばないし」
良太はぶつぶつと千雪に文句をぶつけた。
「や、もう、前っから、理香さん、いつ小説にしてくれんのよ、って会うたびに詰め寄らはるし、これ書く前、何も浮かばん時、多部さん、プロットくらいできてるんやろて脅さはるよって、つい口がすべって、家元のお家騒動がメインやなんて言うてもてな」
それを聞くと良太は思い切り脱力する。
「つい、でこんな七面倒くさい話に何でなるんです?」
読んでしまうと面白いことは確かだが、謎解きをする前にとにかく人物が入り組んでいてそっちを理解するまでが時間がかかる。
「登場人物多いし」
「一言二言しか言わんキャラや、名前だけのなんかすっ飛ばしたらええやろ」
相変わらず千雪は適当なことを言う。
「その名前だけのキャラが重要な手がかりになってるじゃないですか」
「せやったか?」
きょとん顔で聞いてくる千雪に、「自分で作っといて何言ってるんですか」と良太は思わず語気を強める。
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