夢見月4

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「それやね。多部さんにでけた本もろて、読み返したら、これが結構おもろてな、え、これ、俺が書いたん? て、思わず感心してもた」
「何アホなことゆってんですかっ! とにかく、この話の要の家元のお嬢様、誰に白羽の矢を立てるんですかっ!」
 呆れて良太はつい関西弁に染まりそうになりながら千雪を睨みつけた。
「怒鳴り声まで工藤もどきになっとるし」
 二の句が継げずに良太は肩で息をする。
「ほんとにお願いしますよ。俺、四月からいないんで、それまでに片付けなくちゃなんないことが山のようにあるんですってば」
 吐き出すように懇願する良太をちらと見やると、千雪は「ほな、理香さんと真逆の雰囲気の人にしたらええんちゃう?」と言う。
「真逆、ですか」
「うーん、アクが強くて毒を吐きそうなんやのうて、アクは強うないけど、毒吐ける人、とか」
「何ですか、その基準」
 良太は仕方なく俳優陣をリストアップしたタブレットを持ってきて、千雪の前に置いた。
「小説の設定から三十代の俳優さんです。一応スケジュールが何とかなりそうな」
 すると千雪は物珍し気に美人俳優の顔を一人一人見て言った。
「何や、犯人捜しみたいやな」
「千雪さん~、マジにお願いしますよ~。あと、理香さんと対立する、兄の夫人もお願いします」
「理香さん言うてるから見つからんのんやろ。忙しいとかいうて、何気に俺に押し付けてえへんか?」
 ブツブツ文句を言いながら、しばらく千雪は良太の選んだリストを最後まで見たが、「うーん、どれもこれも何かぴんとけーへんなあ」と腕組みをする。
「すみませんが、もう一度お願いします」
 促されて千雪は二十人ほどの写真を最初から見たが、「あかんわやっぱ。俺、大体知らんもん俳優とか」と首を横に振る。
「良太はプロフィールやら知っとるんやろ? そういう資料から選ぶんがええんちゃう?」
「そうですね~、それしかないか」
 事件の中での主役は茶道家元の娘で、次期家元は兄と決まっていたのだが、妹の方が品格や所作が秀でているとは門下の内でも誰もが認めており、英語、フランス語も堪能なトリリンガルで精力的に海外でも活動している。
 アクの強い美人で歯に衣着せず毒を吐くので人によって彼女をよく言う人も悪く言う人もいる、という、五所乃尾理香そのものだ。
 そして彼女とよく対立しているのが、次期家元夫人で旧華族家の出でこちらも美人で小学校高学年の息子が一人いるという設定だ。
「ん? まだ次があるやんか」
 千雪がタブレットでリストの次のページをスクロールした。
「あ、いや、そこからは………」
 オファーを出しても何年先までスケジュールが詰まっているトップ俳優陣で、主役を張るレベルだからとてもじゃないが無理だ、と良太が説明する間もなく、「え、この人なんかええんちゃう?」と千雪が手を止めた。
「え、太田美香子? 無理ですよ、彼女、しばらく産休で仕事をセーブしてたけど、数か月前に復帰してから引く手あまたで、とにかく主役級の俳優さんだし」
「そんなん、当たってみんかったらわかれへんやろ。アクはなさそうやけど目が物言う感じやな」
 事も無げに言う千雪を斜に見て、そりゃその辺の俳優陣は誰をとっても演技力も保証済みだよな、と良太は思う。

 


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