「あ、この人、兄貴の嫁さんにぴったしや」
千雪が言う写真を見た良太は、「え、この人、も無理。ダメモトで一度オファーしてみたことがあるんですが、もうずーっと先までスケジュール決まってますってマネージャーにけんもほろろでしたもん」と断言した。
「俺ごとき門前払いって感じ?」
千雪が選んだのは、CMランキングでも上位に入るし大河ドラマの主演をやったような実力派で、愁いを帯びた美人俳優白河優菜だ。
「ふーん、ほな、やっぱ俺が選んだところであかんやん」
千雪はソファにもたれ掛かって、投げやりな言葉を返す。
「いや、俺は門前払いでも、千雪さんのファンですって人もいると思うし、そうとは言い切れないんですよ。ほら、竹野紗英とか、千雪さんのファンだからドラマに出してくれって言ってきて、出てくれたんですから」
「ほな、良太ちゃんが決めるしかあれへんやろ。まあ、頑張ってや。お、雨、止んだかな」
千雪はつんととがった鼻先を窓の方に向けた。
「またそんな突き放すような言い方」
良太はぶすくれる。
「まあ、門前払い覚悟で、とにかく当たるだけ当たってみますよ」
良太が立ち上がった時、オフィスのドアが開いて工藤が帰ってきた。
「お帰りなさい。あれ、何か、ありました?」
数日は札幌のはずだった工藤が戻ってきたのは、何か急なスケジュールが入ったのだろうと思うのだが、何かその表情が微妙に険しい。
「ああ、ちょっとな。おう、千雪、来てたのか。キャスティング済んだか?」
軽口を叩くのも変な気がする、と良太はたったか奥の自分のデスクに向かう工藤を見て思った。
「千雪さんに、数名候補を選んでもらったんで、一応オファーしてみますが、ちょっと難しいかもです、スケジュール的に」
良太が、家元の娘を太田美香子、兄嫁には白河優菜でと名前を上げると、「また難関クラスを狙ったな」と工藤が苦笑いする。
「とりあえず電話入れてみます」
太田美香子は大手芸能プロダクション、MIエンタープライズ所属で、事務所にはそこそこ活躍している俳優陣が揃っている。
白河優菜は近年独立し個人事務所を持っているが、長年一緒にやってきたマネージャーを社長に、白河夫妻は取締役となっている。
良太はまずMIエンタープライズに電話を入れてみた。
「え、はい、ありがとうございます。それでは明日午後一時に伺います。よろしくお願いいたします」
太田のマネージャーに取り次いでもらい、映画出演の話をしたところ、最初はスケジュールが詰まっておりまして、とすぐに電話を切られそうだったものの、少しお待ち下さい、と二分ほど待たされたところで、太田が話を聞きたいということで、と言ってきた。
明日の午後なら空いているというので、早速良太はアポを取った。
「言ってみるもんですね、これはひょっとしたらひょっとするかもですよ、千雪さん」
電話を切った後、声を弾ませて良太は言った。
「ひとまずアポを取ったので、明日会ってきます。ほんと、太田さん、千雪さんのファンらしいんです!」
「そら、よかったやん」
「この調子で白河さんもOKしてくれないかなあ」
思わず拳を握りしめながら良太は受話器を取ったが、そうそう二匹目のどじょうはいなかったようだ。
まったく、けんもほろろにスケジュールが一杯で、と断られた。
「やっぱなあ。そううまくはいかないってことか」
良太がはあ、と大きく息をついてうなだれる。
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