「あかんかった? ま、しゃあないやん」
「てんで他人事なんだからな」
呆れて良太は千雪を見やる。
これまでも原作のあるドラマに関わったことがあるが、主演はもちろん、好きな俳優が出てくれるとなると、原作者は感涙もので喜んでくれたりするものだ。
中にはあの人は嫌いだからやめろとか、細かく文句をつけてくる作者もいる。
そこへいくと千雪は全く無頓着で、まああまり業界人を知らないということもあるようだが。
それにしても、と良太はさっきから電話でらしくもなくぼそぼそとやり取りしている工藤が気になっていた。
これはやっぱ何かあったな。
「そういえば、茶道の稽古のシーンとかもやっぱ撮るん?」
良太は千雪に向き直った。
「当然、そういうシーンも多くなるでしょう、って千雪さん、書いてるじゃないですか。お茶室とか」
「うーん、それやったら綾小路の茶室とか使わしてもろたらええやん」
千雪としてはいいネタを提供したつもりらしい顔をしている。
「はあ、実は、それも考えて、紫紀さん経由で聞いてもらったところが、家元の茶室と比べたら格が違うとかで、何でも、以前古い茶室があったらしいんですが、戦後まもなくぼやで建て直したらしいんです」
「そんなん、映画見てるもんにはわかれへんやろが。あ、ほな、茶道のセンセ、佐々木さんとこのあの怖いおばはんに言って貸してもろたら?」
「怖いおばはん、て……。いや、実はその佐々木先生に茶道の監修をお願いするついでにそれも打診してみたんですけど、家元の茶室なんて恐れ多いとかできっぱりお断りされました」
良太ははあ、と一つため息をつく。
「ニセコの山小屋といい、お茶室といい、何だってそんな七めんどくさいシーンばっかなんですか」
年末には撮影に使うという山小屋を見に、わざわざニセコまで行ったのだ。
まあ、ちょうど工藤と二人でクリスマスなんて滅多にない時間を過ごせた良太にとっては、結果オーライだったのだが、それはそれだ。
「しゃあないやん。やっぱ容疑者を割り出していくには、横溝風な洋風な山小屋しかないやろ」
「しかなくないですよ。ただの思いつきでしょうが」
「いろいろなシチュエーションがあった方がおもろいやん」
しかも今回は千雪の書いている二つのシリーズのコラボということで、出演者が多いだけでなく主役級が何人も出てくる。
「せや、お茶室、セットで作ったら?」
これも何も知らない人間の軽い発案だ。
「重厚な雰囲気のお茶室なんかおいそれと作れませんよ」
いやそれっぽく作れなくはないかも知れない、大森美術の技術をもってすれば。
しかし、限られた時間の中でそれだけにかかりきりというわけにはいかないだろうし、資金にも限りがある。
「どこか年季が入った茶室を探さないとな。使わせてもらえるところ」
「大変やなあ」
暢気そうに言う千雪に良太は「他人事なんだから」とまたぞろ口にしないではいられない。
「とにかく、その前に、白河優菜に代わる誰か、決めないとなあ」
良太は千雪から受け取ったタブレットで、オファーできそうな俳優を探し始めた。
「家元夫人はぱっと決まったんですけどね~」
ぼそぼそ言いながら良太は画面を追う。
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