「家元夫人て、俺、もろあの怖いおばはん、そのまんま書いてもうたで」
千雪のセリフに良太は頷いた。
「でしょうとも。茶道に厳しくて京都弁で、佐々木さんのお母さんが出てるって思いましたよ、小説読んでて」
「あのおばはん、出すんちゃうやろ?」
「まさか、冗談じゃないですよ、第一、それこそ佐々木先生にどやしつけられますよ。京都の人じゃないけど、シャキッと和服が似合う大御所さんがいるんです」
「ふーん」
良太と千雪がそんなやり取りをしているうちに工藤が電話を終えた。
「白河優菜、断られたって?」
工藤に問われて「はい、けんもほろろに」と良太は答えた。
「俺なんか及びじゃないよってな感じで、あの事務所、でかいと思って上から目線!」
ブツクサ文句を垂れる良太を鼻で嗤うと、工藤は携帯でまた電話を掛けた。
「工藤だが。フン、予定通りみたいな言い方だな」
ふと、相手が業者でもスポンサーでもない、何となくだが、良太は工藤の電話の相手が女性のような気がした。
「白河優菜、オファー承諾した」
やがて電話を終えた工藤の言葉に良太も千雪もちょっと驚いた。
え、もしかして白河優菜本人? ってか、そんな親しい関係?
工藤の周りで今まで現れてこなかった白河優菜という名前が、良太の中で俄然、意味を持ってくる。
「工藤さん、白河優菜とまた秘密の関係とかですやろ? 簡単にオファー承諾やなんて」
良太が聞きたくても逡巡するところを、千雪がダイレクトに聞いた。
「五、六年ぶりだぞ、旦那もいるんだ、勘繰られるようなことはないぞ」
そんな工藤のセリフも良太には言い訳染みて聞こえてしまう。
ちぇ、これだからな。
五、六年前に何かあったってみえみえじゃん。
「それで面倒なキャスティングは終わったんなら、こっちの話だ」
眉を顰めた工藤に、良太の顔も神妙になる。
「何ですか、一体」
また組問題で何らかの攻撃を受けているとかじゃないよな?
「アスカがトラブってる」
思いもよらない言葉に、「え? アスカさん、何かあったんですか?」と良太は思わず立ち上がった。
「明日の文化芸能のネット版で、アスカが江藤巧と不倫とかいう記事だ」
「はあああああ? 冗談でしょ」
思わず声高に良太は聞き返す。
「ああ、当人もあり得ないって俺に食って掛かった」
今のクールでそこそこの視聴率を上げたラブコメディ「トライアングルラブ」は、青山プロダクション所属俳優中川アスカと人気俳優橋本博之のダブル主演でオフィスラブの三角関係を題材にしたものだが、ドラマ自体はクランクアップし、先日打ち上げに行ってきたとアスカからも聞いていた。
江藤巧はルックスよし演技よしのアラフォーの人気俳優で、アスカの恩人で上司を演じ、アスカと以前不倫関係にあったという設定だ。
来週が最終回となるが、奥さんと別れるからよりを戻したいという江藤と今付き合っているエリート営業マンの江藤とアスカがどちらを選ぶかでSNSも湧いていたのだ。
それが、よりによって橋本ではなく実際の妻帯者である江藤と不倫スキャンダルとは、寝耳に水だ、とアスカのマネージャー秋山も相当怒り心頭だという。
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