夢見月54

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「おう、研二」
 辻が直ぐ研二に声をかけた。
「久しぶりやな」
 三田村も二人に気づくとちょっと笑みを浮かべて言った。
「久しぶりなんはお前やろ。ドイツにおったって?」
 研二が言い返すと、「まあな。出張で一か月、フランクフルトにおった。親子水入らずなつもりが、恵美は昨日はベルリン、明日はパリて、忙しないし」と当時のようすを軽く報告する。
「幼稚園児と一緒にベルリン行ったんか?」
「園児と一緒に飛行機に乗るんがどない大変やったか、わかれへんやろ」
 辻に聞かれて三田村は首を横に振る。
 どうやらこの花見はあちこちで旧交を温めるのに手を貸してるらしいと、良太は微笑ましく見ていたが、ふと研二に視線を向ける千雪に気づいた。
 一瞬だが、きつい視線はすぐにそらされた。
 ふう。
 なんか、いろいろありそう。
 良太は駐車場の方へ踵を返して、例によって遅れてくる社長はまだかとエントランスの方に目をやった。
「鈴木さんも、中にどうぞ。後は社長とヤギさんだけだし」
「そうね。お酒以外で、今出し切れないデザートなんかは、冷蔵庫に入れておいたから」
 受付のテーブルで客人からもらった土産を整理していた鈴木さんは、シャンパングラスを持って庭へと出て行った。
「モリーも真中も庭に行っていいよ」
 二人を庭へ追いやったところで、「おう、良太ちゃん、宴たけなわか?」という声に良太は振り返った。
「ヤギさん、お待ちしてました。焼酎もありますよ」
「気が利くじゃねえか」
 グラスに焼酎を注いで下柳に渡したところで、良太はエントランスから入ってきた大柄の影が工藤だとわかり、「おかえりなさい、皆さんお集まりですよ」と声をかけた。
 だが、工藤の後ろに別の人影があるのに気付き、笑みを張り付かせた。
「白河さん、局の前で会ってよ。良太ちゃん、もう顔合わせてるんだって?」
 下柳の説明に、「はい」とだけ良太は答えた。
「こんばんは。ヤギさんがお花見行くっていうから、ご一緒したの」
 嫣然と微笑む白河はヒールはそう高くないが一七〇センチ近い身長で、工藤と並ぶと何だか似合いのカップルのようだった。
「シャンパンとワイン、焼酎がありますが、何がよろしいですか?」
 すぐに強張りを解いて良太は白河に聞いた。
「シャンパン、いただくわ」
 良太はシャンパンを二つのグラスに注ぎ、白河と工藤に渡した。
「いったい、どんだけ集まったんだ? ちっぽけな庭に」
 工藤は眉を顰めてたったか庭へと向かう。
「きれいじゃない」
 白河は桜を眺めながら工藤の後ろから庭に出て行った。
「ここだけの話」
 のっそりと歩く下柳と並んで庭へ行こうとした良太は足を止めた。
「旦那の浮気癖がぶり返したらしくてな」
「え?」
 キナ臭そうな言葉に良太は聞き返す。
「何でも今やってる舞台の若い劇団員に手を出したとか何とか」
「はあ?」
 良太は怪訝な顔で下柳を見た。。
「彼女、昔、工藤にぞっこんだったからな。映画オファーしたって? 旦那にあてつけで工藤に近づくいい理由ができたんじゃねえの?」
 何だよそれ!?
 以前、工藤に付きまとっていた山之辺芽久はヨーロッパと日本を行き来しながら、地道にドラマなどに出ているらしいが、最近は工藤から遠ざかっているようだし、黒川真帆は若い俳優とラブラブ報道を耳にしたから、良太も少しはほっとしていた、矢先に降って湧いた話だ。
 第一やっとアスカさんの件が片付いたってのに、今度は社長と女優の不倫とかって、冗談じゃないぞ!
 ってか、それよか、俺、四月からいないんだぞ!
 良太は胸騒ぎが俄かに大きくなっていくのを感じていた。

 


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