夢見月55

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「遅いわよ、高広!」
 工藤をみとめて早速ひとみが声高に文句を言った。
「もう出来上がってるのか」
 工藤は苦々しい顔で返す。
「ヤギちゃん、また焼酎? たまにはシャンパンくらい飲んでみたらどうなのよ」
「お前の顔を見たら、焼酎でも飲まなきゃやってらんねえよ」
 ひとみと下柳は相変わらず互いに減らず口を叩き合いながら、「何だよ、それうまそうじゃないか」「キャビアよ、わかってる?」などともう笑っている。
「山内さん、お久しぶりです」
 ひとみは顔を上げ、工藤の後から白河が入ってきたのをとっくに見ていたが、今気づいたように、「白河さん、珍しいところで会うわね」と言った。
「今度、お仕事ご一緒させていただくことになると思うので、よろしくお願いします」
 一応、白河にとってはほんの少し先輩格にあたるひとみに挨拶をした。
「あらそう? こちらこそよろしく」
「それにしてもこんなところで宇都宮さんにお会いできるなんて」
 宇都宮もにっこり笑って、「ほんとだね」などと言う。
 それから、白河の出現に気づいた俳優陣があちこちから声をかけ、さながら業界関係者の集いのようになってきた。
 それだけ大御所というわけか、と良太はそのようすを眺めていた。
「おや、白河さん、ご無沙汰しております」
「藤堂さん、英報堂おやめになって以来かしら?」
「今は、河崎と小さな代理店をやっております」
 藤堂にしてはいつものおちゃらかしの顔ではなかった。
「随分ご活躍のようね。小山さんがこぼしてらしたわよ、河崎さんと藤堂さんがうちの仕事を横からさらっていくって」
 小山は藤堂らにとって英報堂の先輩にあたるが、あの会社にしては人がいい部類に入り、たまに情報交換などもしている間柄だ。
「小山さん、大げさなんですよ」
 藤堂は笑った。
「ねえ」
 ぼんやりしていた良太は、腕を取られて振り返った。
「あの人、ドラマに出るの?」
 少し嫌そうな口調で、紗英がぼそりと聞いた。
「ああ、そう、なんですけど」
「あたし、あの人苦手なのよ」
「紗英さんにも苦手があった?」
 あの人というのは白河のことだろうと良太は苦笑した。
「非の打ちどころがなさそうで、何かに文句をつけるとかってないんだけど、実はこそっとマネージャーとかに、あの子下手よね、なんていうのよ」
「はあ」
「まあ、よほどじゃないと、そんなこと言わないんだけど、たまたまそれ、聞いちゃったことがあって、そしたらさ、次からもうその子来なくなったのよ」
「って、降ろされたってこと?」
 良太は聞き返す。
「あの人、表立っては温厚でいつも微笑んでいるみたいなのに、実は眼力は確かでさ」
 紗英をしてそこまで言わせるということは、演技力も人を見る目もあるということか、と良太は妙に感心してしまう。
「ふーん、なるほど、みんなの反応をみても、大御所扱いだね」
 紗英はもろ顔をしかめた。
「でもなんか、すかないんだよね。あたしは昔ほんのちょっと共演したことがあるくらいだけどさ」
 紗英とは違ったタイプだが実力者なのだろう、工藤もそこはよくわかっていて、彼女ならとオファーしたに違いない。
「なんなら、あの人やめてもろてもええで?」
 唐突に後ろから二人の会話に千雪が割り込んだ。
「ヤギさんも、何や懸念しとったみたいやし」

 


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