いつの間にそんなことまでと、名探偵と巷で称される千雪の顔を良太はまじまじと見た。
「大体、良太と俺で、どれにしようかなで決めただけやろ」
「や、さすがにそう簡単には。いまさらやめるとか理由がないでしょ」
良太は小首を傾げて反論する。
「ちょっと、何それ、そんなことやってんの?」
今度は紗英が詰るように言う。
もとはといえば小説家小林千雪先生のファンだった紗英も千雪がこんなだと知ってから、すっかりため口だ。
「そうかて俺、俳優とか知らんもん」
「や、一応、先生のご意見も聞いてから、キャスティングは厳正にやってますよ」
言い訳交じりに良太は訂正した。
まあ、千雪がこの人って言った当人は、たまたま良太も頷ける俳優だったということなのだが。
「ふーん。でもなーんかさ、あの人、ここのドラマや映画とは水が違うって気がしない?」
紗英の感性も確かに鋭いのだろう、良太も白河に対して似たようなことを思ったのだ。
「ただ、下手をするとぬるま湯みたいになりかねないし、違う水を注いで化学反応を見るのもそれはそれで面白いことになるかも」
紗英と千雪がしばし良太を見つめた。
「言うわね、良太P」
「それもしかりやけど、ええんか?」
千雪が何を言わんとしているかを思い出して、まあた、俺って自分で墓穴掘ってどうすんだよ、と良太ははたと自分を叱咤する。
これじゃ、本谷の時の二の舞じゃん。
本谷が工藤に想いを寄せているとわかっていてドラマのキャスティングに本谷を加えた時も、あとになって自分でグダグダと悩むことになったのだ。
結果的に本谷と工藤の間には何もなかったのだが、今回、白河は結構あからさまに工藤に秋波を送っている気がする。
はあ、と良太はため息をついた。
「何か、また前途多難な気がしますけど」
「強気になったり弱気になったり、しゃんとしなさいよ。ニューヨーク研修も待ってるんだから!」
紗英に背中をパンと叩かれて良太は「はい」と年は下でも姉御のような貫禄の紗英に苦笑した。
「そうだ、今度、私のこと小説に書いてよ」
千雪に向き直ると紗英はいきなりそんなことを言い出した。
「やからもう、それ、やめてんか。理香さんが煩ういわはるからようやっと書いたんやから」
ぶーたれる千雪に、「だって、まだ俳優がメインの小説ないでしょ? ちゃんと読んでるんだから」と尚も紗英はせっつく。
「ドラマにする時も、キャスティング悩まなくて済むし」
まあ、それは確かに、などと一瞬頷いた良太だが、「紗英さん、ドラマ、もう出たじゃないですか。それに、先までスケジュールいっぱいのくせに」と言い返す。
「あれはあれ。結構視聴率もよかったじゃない」
そうなのだ、さすが主役を張る俳優が出ると違う、などと良太は思い返す。
「いつになるかわかれへんで」
千雪は投げやりに言った。
「いつまでもお待ちしてます」
強引に千雪に難題を吹っ掛けた紗英はにっこりと笑う。
「おう、千雪、ちょっと顔かせ」
その時、辻がやってきて千雪に声をかけた。
「GWの話やねんけどな」
「ああ、また俺んとこ集まるんでええやろ」
「それがな、ちょっとヤバい話が持ち上がっとって」
険しい顔で辻が言う。
「なんやねん、ヤバい話して」
千雪は同級生仲間の方へと辻に連れていかれた。
「ヤバいの、千雪さんだよね」
ぼそりと紗英が言った。
「ほんとに、まるで、全然、別人」
改めて口にする紗英に、良太は今更ながらに頷いた。
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