「アスカさんの件だけど、どうもきな臭いよ」
仕事上付き合いの長い代理店プラグインの藤堂である。
元英報堂のエリートだったという藤堂は、有能なマーケッターであり、また業界だけでなくあらゆる情報を引き寄せる不思議な存在だ。
「もう藤堂さんの耳にも入ってるんですか?」
「そりゃ、当然」
「それで、きな臭いって、どういうことですか?」
良太のセリフに、みんなの視線が一斉に集まった。
「文化芸能だから、滅多なことで人気女優の不倫なんて記事を掲載するはずがない」
藤堂の言葉は今回良太の胸にきつい。
「裏を取らずにとかまずやらないだろうし」
「でもっ……!」
「まあ、聞いてよ、良太ちゃん」
アスカが不倫なんかあり得ないと否定しようとした良太を遮って、藤堂は続けた。
「かなり信ぴょう性がありそうな記事なんだよ。だがしかし。アスカさんにしてみれば全く根も葉もないこと、なんだよね?」
念を押すように藤堂は聞いた。
「当たり前です! 大体アスカさんの気性からして不倫なんて金輪際毛嫌いしてるし、ましてや我儘放題やってたってアスカさんプロですから、仕事で周りに迷惑をかけるようなことをするはずがないんです」
アスカはああ見えて強い正義感の持ち主だ、不倫など倫理的に相容れないだろう。
たとえドラマで不倫していたなんて役をやっていたとしても、それは演技でしかない。
「そうなんだよ。俺も良太ちゃんの意見と微塵も違わないからね、アスカさんに関しては。そうすると記事とイコールは成り立たない。じゃあ一体、文化芸能がどこからそんなネタを仕入れてきたのか、さり気に聞き耳を立ててみたら、きな臭い話が引っ掛かったんだ」
「それってどんな話なんですかっ」
良太は勢い込んで聞いた。
「アスカさん、去年ヒットした映画で主演女優賞でアカデミー賞にノミネートされてるだろ?」
「ええ、ここ数年ノミネートはよく」
「それだけじゃなく再来年の大河ドラマに準主演でオファーあったでしょ?」
「ええ、でもまだそれは……」
「実は大手の事務所で、その役を取りたい女優がいてね、その事務所の幹部と文化芸能の記者がよくつるんでるみたいで」
藤堂はあくまでも一つの仮説だからと言いおいて、また何かわかったら連絡するからと電話を切った。
「藤堂が何て言ってきたんだ?」
すぐと工藤が良太に聞きただした。
「あくまでも仮設らしいんですけど……」
藤堂によると、大手芸能プロダクションである東プロモーションの幹部が、所属女優を大河ドラマに出したいがために、親しい文化芸能の記者とつるんでアスカにとって不利になる記事をでっちあげたのではないか、というきな臭い話があるらしい、と良太はかいつまんで話した。
「小菅もえ、か」
工藤が呟くように口にした女優を良太も無論知っていた。
アスカとほぼ同時期にデビューしたものの、華やかにスターダムを駆け上がったアスカに出遅れて最近割と名前を聞くようになったのだが、役柄が被ることが多く、アスカに軍配が上がるばかりで、賞のノミネートも今年ようやくというところだ。
そういえばと、小林千雪原作の弁護士シリーズで大澤流主演のドラマのキャスティングで、アスカがやっている警部の役に上がった数名の中に、小菅の名前があったことを工藤は思い出した。
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