「大丈夫。私が何とかしてみせるわ。お願い、もう一度チャンスをちょうだい」
平と呼ばれた女性は揺ぎ無い口調で言い切った。
「仕方ないな。やってみろ」
渋い表情のまま、工藤は言った。
「ありがとう。あなたを後悔させるようなことはしないわ」
女性は踵を返し、オフィスを出る前に千雪を見ながら言った。
「その子、新しいモデル?」
工藤は一瞬迷い、「……いや」とだけ言った。
「ああ、わかった、この子ね? 山之辺芽久から乗り換えたって子」
「ああ、まあ、そうだ」
工藤の台詞にぎょっとして千雪は振り返る。
ちょお待て! 何やねん、それは!!!
口に出したいところをぐっと堪えて、工藤を睨みつける。
女性はフフンと笑って出て行った。
「あ、おい、平!」
工藤は電話に向かいかけて、何かを思いついたようで、女性を呼んだが、既に階下に降りてしまったらしい。
「こんばんは」
そこへまたひとり、美人が現れた。
あれっと思って、千雪が手元の女性誌を見ると、表紙を飾っているその人だった。
「万里子、ちょっと、平に用があるから待ってろ」
慌てて工藤はオフィスを出て行った。
「なあに? 平さん、またタレントさんのごり押し?」
入れ替わるように入ってきた万里子と呼ばれた美人は鈴木さんに確かめるように言った。
「ほほほ、さあ……。今、お紅茶入れますね、万里子さん」
「ありがとう」
千雪が少し感心したのは、鈴木さんだ。
何があっても動じない、常に穏やかそうに見える。
と、今度は万里子と目が合った。
「こんばんは、小野万里子です。あなた、新しいモデルさん? 女優さん?」
千雪はフウと一つ溜息をつく。
「小林です。モデルでも女優でもありませんよ、俺は」
一瞬間があった。
「ウソ! びっくり! ごめんなさい、男の方だったの? だって、すんごいきれいだし。さっき工藤さんも、新しい彼女ってそうだって言ってたでしょ? え、あ、そういうこと? 男の子でもありだもんね」
「勝手に誤解しないでください。あれは工藤さんのでまかせです。君こそ、工藤みたいなオッサン、やめといた方がええん違います? いつかの人の二の舞にならんうちに」
きっぱりと否定してから、ここにきてまで面倒な人間模様に付き合わされた千雪はつい余計なことを口にしてしまう。
「やあね、あたしと工藤さんがどうにかなるわけないじゃない」
万里子は軽く笑い飛ばした。
「万里子さん、どうぞ」
鈴木さんが千雪の向かいにお茶を置いて、万里子を促した。
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