都内で開催された研究会に教授のお供で出席した京助は、夕方、やっと研究会が終わり、どうだね、一杯付き合わないか、という教授に、車ですし実は身内に不幸がありましてとどこぞで聞いたようなありふれた言い訳をして部屋に戻ろうと車に乗り込んで初めて、千雪のラインに気づいて慌てた。
何度も携帯をコールしてみるが応答はない。
電源を切っている。
もちろんラインを送ってみるが、まったく既読がつかない。
いったいどうしたっていうんだ?
胸に手を当てても、京都から帰って以来千雪を怒らせるような真似は一切していないはずだ。
まさかまた工藤のところ、いや、もしや京都へ舞い戻ったとか?
そんな思いを巡らしていたその時、携帯が鳴った。
「………お前か」
いつだったか帰国するという電話をもらった気もするが、そんなことはすっかり忘れていた。
「今、忙しいんだ、切るぞ」
「噂の『真夜中の恋人』にお目にかかったよ」
あたふたと切ろうとして、京助は気になる台詞に眉を顰める。
「何だ、克也、その背中に虫唾が走るような代名詞は」
「まさか本人が知らないのか? お前が超のつく美人を最近連れまわしてるらしいと、安井らから聞いたのさ。それも真夜中限定で。で、一体どういう相手だろうと、仲間うちじゃ想像たくましくしてるみたいだぜ?」
京助は舌打ちした。
マスコミに妙なことを書き立てられないようにとは、気をつけていたつもりだが。
女ならいい。
いや、いいわけではないが、少なくとも千雪のことを取りざたされなければだ。
世間がどうのではない。
千雪本人がまた別れる切れるを言い出さないとも限らないからだ。
「いや、俺もお前がそんなに入れあげているっていう相手に興味はあったが、噂以上の美人じゃないか? 俺もとんとあんな美人にはお目にかかったことがない。一体どこで捕まえたんだ? いや、捕まえられた、か?」
いきなり雷に撃たれたような思いがした。
「貴様、一体どこで……?」
「たったさっき、お前の部屋で、お前がいるかと思って部屋に入ったら、眠れる森の美女ならぬ美少年がいて、もっと話したかったのに帰っちまってさ、ああ、東京にいる間しばらくまた世話になるぜ」
すぐに千雪のラインの意味を理解した。
しかも恐ろしく怒っているだろうことも。
「断る。どこかホテルでも探せ」
「おいおい、そりゃ、ないだろ? お前と俺のつきあいで。あ、まさか、あの坊やのせいとか言わないよな?」
「とにかく、部屋を出ろ。鍵は置いて行け」
まさかの事態だ。
「それと、殴られたくなけりゃその虫唾が走る呼称を金輪際口にするな! 一切忘れろ!」
速水が何かまだごちゃごちゃ言っている携帯を切り、シートに凭れて京助は大きく息をついてからエンジンをかけた。
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