真夜中の恋人40

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「授業中は当てられてもわかりません、言うといてお前、試験は満点取るし、あいつが何言うても無視やったし、お前がそういう態度取るからみんなも真似しよって」
 三田村に言われて、千雪も当時のことを思い出した。
「逆パワハラか? イジメてもたんかな、やっぱ、俺」
「白々しいわ、今頃」
 今は昔。
 そんなことも? 高校時代の思い出になっている。
「何か、随分、年くった気ぃする。高校時代、時々戻りたいなんてな……」
 ボソリ、と千雪は口にしてワインを空ける。
「そうやね………」
「二人とも何をしんみりしとんね、それもこれもあっての今やろ」
 千雪に同調する桐島を見て、三田村がフンと鼻息も荒く言い切った。
「そうや、私、小林くんに会うたら、絶対聞きたい思てたことがあるんよ」
 桐島が意を決したように千雪を見つめた。
「卒業式の日、ボタン誰にあげたん?」
「え…………」
「女の子らの間でもう、大問題になってたんよ。いつの間にか小林くんの第二ボタンなくなってたて。それが不思議なことにてっきり江美子さんにあげたんやと思て聞いたら、江美子さんも知らん言うし。江美子さんやったら、小林くんとのこと誰もが認めてたし、もろたのに嘘つく理由ないでしょ?」
 妙なところで妙なことを突っ込まれ、千雪はしばし躊躇した。
「あれは………ボタン欲しい女の子に襲われるぞとか脅かされて、あらかじめ自分で取ったんや。まさかとは思うとったけど、他のボタン二つもいきなり毟り取られたんやで?」
「ふうん。ほんまなん?」
 桐島にまだ疑いの眼差しで見つめられて、千雪は思わず大きく頷いた。
 本当のことはもう誰にも話すことはないだろう。
 あいつのボタンを俺が一番欲しかったからなんやと。
 引き出しの奥にある、あのボタンとともにもうこれからずっと大切に仕舞いこんでおくだけだ。
「そういえば、千雪、小説映画になるんやて? すごいやん」
 話題を切り替えたのは三田村だ。
「あ、ああ、まだどないなるかわからんけど」
「誰が出るんや? もう決まったのか?」
 ひとしきり映画の話で盛り上がったが、九時を過ぎた頃、桐島がリサイタルに備えて準備があるし、そろそろ帰ると言うので、とりあえず店を出た。
「おやすみなさい、またね、小林くん」
「ああ、またな」
 桐島をタクシーに乗せた後、三田村と千雪は少し歩いた。
「そういえば、映画のプロデューサの事務所、ここからすぐや」
 乃木坂の駅へと続く道すじに、青山プロダクションがある。
「へえ」
「小野万里子と志村嘉人はそこの所属」
「ほんまか? ほな、行ってみよや」
 唐突に三田村がそんなことを言い出した。
「何しに? 行ったかて、もう九時過ぎてるし」
「まあまあ、明日は土曜日、休みやし。あ、けど、お前、例の名探偵のなりせんとあかんのんか?」
「いや、社長の工藤さんは知ってはるけど」
「ほな、ええやん」
 三田村は千雪の腕を取って絡ませ、酔いもあってか浮き浮きと歩き出す。


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