真夜中の恋人42

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    Act 7
  
 
 寿々屋通いが最近日課になりつつあった。
「女将、もう一本」
「はいはい、どうぞ」
 女将から酌をしてもらい、京助は厚揚げを追加で頼む。
「この里芋、美味いな」
 里芋の煮物は女将のおすすめだったが、この店の煮物はどれも美味い。
 味付けや食材など、女将は惜しげもなく教えてくれる。
 もともと料理は好きな京助にとって、美味いもののレシピはぜひ知りたいのだ。
 だが、料理は作ってやりたい相手がいてこそのもので、もうずっと、これを千雪に食わせたら喜ぶだろう、しか頭にない。
 だから食べる人間がいないのに作る気は起きず、研究室を出てからここでこうして一人寿々屋の暖簾をくぐる。
 ちぇ、早いとこ帰りやがれ。
 文子はまだしも、千雪が煙たがっているのは速水の存在だ。
 実際、不覚だったと今更ながらに後悔しているのが、速水が合鍵を持ったままだったのをすっかり忘れていたことだ。
 よもや自分の留守に、しかも寝室で千雪と速水が出くわすことになろうとは努々思いもよらなかった。
 にしたって、あいつ、あんな狭い了見のやつだったか。
 ニューヨークの友人連中の中には、ゲイなんて珍しくないはずだ。
 紹介してくれた同僚にも確かいたと記憶している。
 なのに何だって、今回やたらあんな言い方をするんだ?
 千雪には、やつとは縁を切るなんて言ったものの、克也のやつがそうそう物分りの悪い男とは思えないんだが………。
 その時ポケットの携帯が鳴った。
「お前か。あ? 何だって?」
 かけてきたのは今しがたいろいろ考えていた当の速水である。
「やられたよ。真夜中の恋人に、お前が入れ込んでるあの坊やだ。あのやろう、俺がようやく桐島恵美を誘って真剣に語らっていたところへやってきて、ひっかきまわしていきやがった」
「言ってる意味がわからねぇ」
「だから、桐島恵美の前で、いかにも俺に遊ばれたみたいなことを言いやがって、俺の面目は粉々だ! 貴様、あいつに俺が桐島恵美と会うことを話したのか?」
 どうやら千雪が速水と桐島のデートをぶち壊したらしいとは理解した京助は笑った。
「何で俺がわざわざあいつにそんなことを言わなきゃならねんだ? フン、自業自得だ。てめぇのやったことを胸に手をあてて考えてみるんだな」
 携帯を切ってから、京助は思い当たる。
 つまり千雪は桐島と連絡を取り合っているのか?
 その程度のことが気になる俺は、器の小さい男だよ、バカやろ!
「女将、もう一本頼む」
「はいよ」
 やはり、克也がアメリカに帰る時にでも千雪のことは話さねばならない。
 千雪はよくは思わないかもしれないが。
 克也はそこまでバカな男ではないはずだ。
 京助は眉を顰めながら残りの酒を飲みほすと、店を出た。

 


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