雑誌の原稿は何とか上がって送ったのだが、レポートがちんたらして進まない。
それでも午後の講義があるので帰るわけにもいかず、キーを叩いているうちに二限目終了のチャイムが鳴った。
昼か。
カフェテリアあたりをうろついていると、速水と顔を合わせる可能性があるし、何となくそのことを考えるだけで面倒でうっとおしい。
午後の授業が始まる前に、パンでも買ってくればいいか、などと考えていたところへ、「千雪先輩、いてはる?」とまたウザい男の声がした。
「いてないで」
佐久間は遠慮なくたったか千雪のデスクまでやってくる。
「何が、いてないや」
「うるさいな、俺はレポートで忙しいんや」
佐久間は背後から画面を覗き込みながら、小声になる。
「お客さんでっせ。廊下で待ったはる。先輩、また何ぞあったんちゃいますやろな?」
「はあ?」
「スーツのお客さん、見ない顔やけど、また刑事やないですか?」
今朝のこともあったので渋谷の方で何かあったのかと思い、千雪は怪訝な顔で仕方なく立ち上がると、研究室のドアを開ける。
千雪が顔を出した途端、立っていた男はしばし千雪の上から下までジロジロ遠慮なく眺めたかと思うと、次には豪快に笑い出した。
「……もうその辺にしとけや、三田村。暇そうに何やってんね、こないなとこで」
ひとしきり笑うと、三田村は今度は写真を撮ろうと携帯を向ける。
「ええ加減にせんか。何しにきたんや」
その携帯を取り上げて、千雪は三田村を睨んだ。
「外周りのついでに、昼でも一緒に食おうかと……。せぇけど、考えたもんやな」
「うるさいな。ジロジロ見んなや」
さらに感心したように三田村は千雪を眺める。
「どなたはんです?」
ぼんやり突っ立って二人のようすを見ていた佐久間が聞いた。
「ああ、高校時代の同級生や」
すると佐久間は興味深々という顔で三田村を見た。
「そうでっか。あ、俺、後輩の佐久間です。千雪先輩て、高校ん時からこんなんでしたん?」
「悪いな、佐久間。こいつと大事な話あるよって。ほな、どっか行くか? 中華なら、近くに安うて美味い店があるで」
千雪は佐久間の思惑を遮るように、三田村を促して歩き出す。
「せっかくやから、学食でええで?」
「冗談やない。まだ速水とかいてるねんで?」
「それやったら、夕べ、俺が説明しといたで」
「説明って、何を?」
思わず立ち止まって千雪は三田村の顔を覗きこむ。
「せやから、高校ん時からアイドルやって、女の子にきゃあきゃあ追い掛け回されよったから、それがトラウマになって、変装してんのやて」
「アホか。何がアイドルや」
「わかりやすいやろ? そうかてあの速水ってオッサン、お前が出てった後もしばらく呆然と、幽霊でも見たような顔してたからな」
ただ、変装していただけのことなら、それでいいかもしれないが。
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