だが、問題は別のところにあるのだ。
結局、三田村に押し切られて学食で定食を食べた後、コーヒーを持ってカフェテリアへ向かう。
その間も、千雪を見た特に女子学生の反応が三田村を笑わせた。
「出た、ヘンタイジジィ」
「やだ、クサいのがきた」
「クサいセンセの横にいるの、またイケメン!」
彼女らの言葉はコソコソという範疇を超えて、しっかり聞こえてくる。
「なるほど、こら、オモロいわ。やめられへんわけやな?」
木陰のテーブルに陣取り、三田村は笑った。
「他人事や思て」
「まあ苦肉の策いうわけやな、弁慶もおらんし、わからんでもないけど?」
したり顔で三田村はコーヒーを飲む。
「うるさいな、俺はひとりでやってるわ」
思いがけず三田村の口から飛び出した弁慶という言葉は、千雪を切なくさせる。
つと、三田村が千雪の眼鏡に手を伸ばした。
「これ、よう見つけたな、ぶっとい黒渕メガネ」
三田村が手の中の眼鏡をしげしげと眺める。
「アホ、返せや!」
一瞬のことだったが、千雪は慌てて眼鏡を取り返してかける。
「なあ」
急に三田村の顔が千雪の前でアップになっている。
「ここでお前にキスしたら、さっきの女の子ら、どない反応するやろな?」
今にも唇が触れそうになっているのを、千雪はカッと真っ赤になりながら、その肩を掴んで押し戻す。
「俺で遊ぶなや!」
「ちぇ、チャンスやったのに」
ニタニタ笑う三田村を思い切り睨みつけて、もう一度、アホ、と言い放つ。
「おい、お前、何やってる!」
ドカドカとやってきて仁王立ちになったのは、京助だった。
二人に気づいて、今のやりとりを見た途端、血相を変えてやってきたのだ。
「京助……。ああ、こいつ、高校の同級生の三田村や。昨日、久しぶりに会うて」
京助に鬼の形相で見下ろされた三田村は、徐に立ち上がった。
「ああ、お噂は。つい最近ドイツから帰国したばかりで、京都での話、聞きました。三田村と言います」
「綾小路京助、法医学教室にいてる、先輩なんや」
まだ警戒を解こうとしない京助を千雪はとりあえず三田村に紹介する。
「千雪がえろうお世話になっとるみたいですね」
三田村は明らかに牽制するような眼差しを京助に向けた。
桐島から、京助の話は聞いていた。
気になったのは、すごく親しげだったという、そこのところだ。
ここまでやってきたのは、その京助にも会ってみたいと思ったからだ。
いったい、どう、親しいのだろう、と。
「フン、こいつは世話のしがいがあるからな」
京助は三田村の牽制を鼻で笑って言い返した。
「おい、夕べ、速水のやつに聞いた。これで何も隠すことはないってわけだ」
ボソリと京助が言った。
「今夜、部屋に行くからな」
京助は千雪の肩にぽんと手を置くと、少し離れたテーブルにいる速水や文子、それに牧村のところへ戻っていった。
速水の自分に向けられた視線は感じていたが、今日は絡んでくる気はないらしいのはありがたかった。
「千雪、あいつ、何、威張ってんね」
京助の言葉に三田村は少しムッとしていた。
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