「聞きしに勝る変人ぶり。面白いなぁ、何か、漫画の中から出てきたまんまって感じ?」
「大原です」
ぺこりと頭は下げただけで、千雪は速水は無視し、無表情で文子を見た。
深窓の令嬢とはまさしくこの人のことを言う気がした。
従姉の小夜子もお嬢様を絵に描いたようなタイプだが、天真爛漫な分、親しみがある。
だが、この文子は才媛というだけあって、少しお高い雰囲気かも、などと考えてから、千雪は京助の元恋人、ということで文子のあらを探したような気がして、そんな自分が気持ち悪い。
「今夜、法医研と法学研究室で飲み会やるんだ。もちろん、君も参加してもらわないと」
「あいにく、原稿あげないとあかんので、俺は遠慮します」
テンションが落ちない速水の独断的な言い方に、千雪は丁寧に辞退したつもりだった。
「あ、そうか、名探偵は、探偵小説も書いているんだっけ?」
あからさまに見下したような言い方をされ、土曜日の朝のことも蘇って、思わずぶん殴ってやりたい衝動にかられたが、お前はすぐカッとなるから心配だ、といつだったかの研二の言葉が頭をよぎり、千雪はこっそり深呼吸をして自分を静める。
三流小説だの何だの、散々こき下ろされたりするものの、別にそんなものは気にもかけない千雪だが、この男の口から出た言葉は許せない気がした。
「ほな、これで」
後ろにいる京助をジロリと睨みつけながら、千雪はその場を去ろうとした。
「ええ、そんなこと言わずに、たまには一緒に飲もうよ! 私としてはこないだの事件のことも聞きたいんだよね」
牧村久美は法医学教室の紅一点で、姉御肌のさっぱりとした気性の女性だ。
「そうでっせ? 大丈夫、千雪先輩は俺が絶対連れて行きますから」
安請け合いをする佐久間の横から京助がすっと近づいてきた。
「ほんとにすまない。今夜は出なくていいぞ」
京助はすまなそうに、耳元で囁く。
「誰が出るか」
思った以上に千雪が怒っているのに、京助はフウと息をつく。
「だから、悪いってっだろ?」
「今夜は俺はダシで、大原さんとお前の焼けぼっくいに火をつけるのが周りの目的らしいで。お前のご学友とは言葉を交わす気にもなれへん」
「おい、佐久間が何を言ったか知らないが、俺と文子はとっくに……」
京助は焦り、思わず声を上げる。
「お前と大原さん、似合いやで? うまくいくように応援してるわ」
「おい、千雪!」
もどかしげにイラつく京助に、追い討ちをかけるようにはっきりそう言うと、千雪はその場をあとにした。
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