真夜中の恋人61

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    Act 9
 
  
 夜景は窓一面、静かに広がっていた。
 煌く光の渦が少しずつゆっくりと形を変えていく。
 上等のワインもひとりでがぶ飲みしたって美味くはないな。
 グラスを持ったまま京助は窓の外から視線を戻す。
 カレンだったか、理香だったか、いつ誰とこのホテルに来たのかなど忘れてしまった。
 美沙は極端にセレブというくくりの連中がやることに気後れしていたようだったから、連れて来たことはない。
 いずれ遊びと割り切った相手とのラブアフェアで、ただ、相手の女が、ステキ、ステキ、と眼前の夜の光景にいたく感激していたことだけは覚えている。
 相手が喜んでくれれば、楽しく夜を過ごせるはずなのだが。
 ロマンチックなところもあるのね、京助も。
 そんな台詞を吐いたのは誰だったろうか。
 いや別にそれはどうでもいい。
 何となくこの夜景を思い出して、ひょっとしたら千雪も喜んでくれはしないかと。
 そしたら少しでも千雪の機嫌がよくなりはしないかと。
 無駄だったようだな。
 女じゃないんだ。
 それに心を通わせたい相手なら、どんな風景もロマンチックにもなるだろうさ。
 ちっと舌打ちして、煙草をくわえて火をつける。
 近頃は煙草を吸う人間にとってどこもかしこも住みにくくなっているし、吸い過ぎだと千雪にも言われて本数も減らしていたのだが、ここのところイライラと忙しさでついくわえていた。
「くそっ!!」
 京助はさほど吸わないうちに煙草を灰皿でもみ消した。
 それにしても俺からしかけてうまくいった試しはないな。
 多分、重いんだろう。
 自分でもよくわかっている。
 こんなヤツにまとわりつかれたらウザいだけだ。
 独占欲が強くて、傲慢で、俺に気があるとかいう女は、本当の俺を知らないんだろ。
 何気なく腕時計を見た京助は、千雪の風呂がやけに長いな、と思った。
「あいつ……」
 次にはバスルームに飛び込んでいた。
「千雪!」
 案の定、風呂につかったまま、ぐったりと目を閉じている。
 手すりに腕を引っ掛けているせいでかろうじて沈んではいない。
 京助は慌てて千雪をバスタブから引っ張り出し、バスローブを掴んで千雪の身体を包むと、とりあえずソファまで運んだ。
「おい、千雪!! 千雪っ!!」
 冷蔵庫から出したミネラルウォーターをグラスに注いで持ってくると、京助は千雪の頬を軽く叩いた。
「……う……あ、あれ、京助……」
 京助の腕に頭を支えられて、千雪は目を開けた。
「あれじゃねぇだろ、何やってんだ、お前は!!」
 答える前に千雪は目の前にあるグラスの水をゴクゴクと飲んで思い切り息を吐く。

 


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