ACT 2
爽やかな好天にもかかわらず、朝からオフィスは怪しい雲行きを醸し出していた。
「そのくらいの怪我、テーピングで何とかごまかせるでしょう?」
丁寧な言い回しだがはっきりと秋山は相手を見据えた。
「いや、そう簡単には行かないみたいでして。誠に申し訳ございません。もちろん、違約金は耳をそろえてお支払いいたしますので」
ハンカチで汗を拭き拭き、中背がっしりタイプの眼鏡男はしきりと頭を下げる。
「あんた、そういう問題じゃねぇだろう?」
凄んで詰め寄るのはプラグインの河崎だ。
工藤はイタリア語で電話相手に怒鳴っている。
「一週間、その予定を繰り下げることができないのか」ということらしい。
「怪我で出演辞退? バッカじゃない、駆け出しのくせに、そんなもん足引きずってでもやるのがプロじゃない。仕事を何だと思ってんのよ」
「今のせりふ、君ももしっかり覚えておいた方がいいな」
窓際のソファに座って文句をたれるアスカに、秋山が笑って返す。
「何が言いたいのよ」
良太がオフィスにきてみたら既にこのありさまだった。
朝、心地よい夢の中を浮遊していた良太は、軽やかなドラえもんのメロディと蒸し暑さに半分目を覚ましかけでベッドをおりると、上着のポケットに辿り着いて音の発信源を取り出した。
「ちょっといい加減降りてきてよ。大事な話があるんだから」
いきなりキンキンと頭に響く声の主はすぐわかった。
「アスカさん……はい、ただ今…」
携帯を切って、時間を確認する。途端、ようやく覚醒した。
「うっわー! もう十時半になるじゃん!」
慌ててあたりを見回して、そこが工藤の部屋だということを思い出す。
「え、何で起こしてくれないんだよーーー!」
とっくに部屋の主の姿はない。
慌ててシャツだけ引っ掛け、自分の着ていたものをがっとかき集めてながら、うろ覚えの昨夜のことが脳裏を巡る。
「ぎゃーーーっ! 俺ってまた夕べ恥ずいこと…」
いい機嫌で酒が入ると、めちゃテンションがハイになるのは自分でもよくわかっていた。
昨夜も例にもれず、工藤と一緒なのが嬉しくて、素面なら絶対やらないだろう、工藤に寄っかかったりして…。
「あ~~~~~~~~っ!」
夕べの自分を思い出して身悶えなんかしている場合ではない。
工藤の部屋を飛び出すと、鍵をかけたり開けたりするのももどかしく、自分の部屋に駆け込んだ。
飛んできたナータンに「ワリィ! 今メシやるからな」とキャットフードを用意し、シャワーもそこそこに身支度を整え、エレベーターに飛び乗った。その間約十五分。
こそっとドアを開けてオフィスに入る。
小さな声で良太が「おはようございます~」と挨拶する。
「おそよう!」
「やあ、おはよう」
またしても不機嫌そうなアスカと何があっても機嫌のよさそうな藤堂が良太に声をかけてきただけで、工藤も河崎も喧喧囂囂と喚き散らしている。
「はい、眠気覚ましのコーヒー」
キッチンからコーヒーを持ってきた鈴木さんが、朝からずっとああなのよ、と良太に耳打ちする。
「はあ…」
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