「それで、シッポを掴んだのか」
「今、譲に調査させてるとこだ。だが、きさま、ほんとに奈々やアスカに手を出してるんじゃないだろうな? それが事実なら俺は無罪にしてやる気なんかさらさらないからな」
「るせーな、あんなガキに俺が手を出すかよ。何度もブタ箱に入り浸ってる臭い飯が好きなきさまのしょぼい依頼人と俺をいっしょにするな」
工藤が座らないので、立ったままの良太は小百合から受け取ったアイスコーヒーをストローでゴクリと飲んだ。
「工藤さん、どうぞ」
辛らつなやりとりも気にせず、小百合は工藤に冷たいグラスを差し出した。
「おう、すまん」
「フン、どうせ何かわかっても、訴訟を起こすんなら長丁場だからな。小百合ちゃん、俺にも」
「はーい」
「訴訟なんかいらん。ただ何でここんとこ急に、うちを攻撃してくるか…だ」
「何か、まだあるのか?」
工藤は小田のその問いには答えず、アイスコーヒーにも少し口をつけただけで、良太を急かして早々に小田事務所を引き上げた。
良太は工藤の小田への対応が気になった。
「あの、まだ、何かあるんですか…?」
ひょっとして空港からずっと河崎らと揉めていたような、そのことに関係あるのだろうか。
眉間に皺を寄せて黙って運転している工藤に、確かめないではいられなかった。
「お前はつまらんことを考えなくてもいい! 親との旅行の準備でもしておけ」
これだよ。
どうせ俺なんかね、どこへでも行けってんだろ?
今ごろから何準備しろってんだ、キショーメ!
頭ごなしに怒鳴られてふてくされた良太は、ふいと窓の外に顔を向ける。
街はとっくの昔に灯りが流れる時間になっていた。
工藤は車に良太を待たせておいて、高輪の自分の部屋に寄ってスーツケースを置いてくると、また車のエンジンをかけた。
鍵をコンシェルジュに預けておけば、クリーニングやら洗濯やらは通いの家政婦がやってくれる。
高輪の部屋は高級億ションという感じでいかにもリッチでハイソだが、以前部屋に行った時、良太は生活感がない感じがした。ほとんど部屋で食事もしたことはないようだ。
高輪と比べたら2LDKでずっと狭いが、洗濯機も使うし、冷蔵庫にも何かしら入っているし、会社のビルにある良太の隣の部屋の方が、良太にはずっと親しみがある。
鍵をもらったのは入社当初だが、頻繁に出入りし始めたのは最近だ。
それだけ工藤も会社の上の部屋にいるケースも少しは増えたということだ。
だけど、どうせ俺はガキだしな…
小田事務所での工藤の言葉がまた良太の頭をぐるぐるする。
少なくともアスカさんの方が俺よりひとつ上だし。
「メシ、行くぞ」
いつのまにか車は会社の駐車場に入り、車を降りた工藤が言った。
現金なもので、今日はもうナータンに泣きついて、ビールでも飲んで寝ちまおう、なんて思っていた良太だが、工藤の言葉にころっと喜んでしまう。
工藤の行きつけの小料理屋で、ちょっと酒も入ると、良太は工藤不在の一週間の話を何だかだと並べ立てた。
工藤は冷酒を飲み、時折肴に箸をつけながら、いつものように良太の話におざなりに返事をする。
いい気分で酔っ払った良太は、エレベーターの中でもさっきまで文句言っていたのもどこへやら、「工藤さ~ん」なんて無意識にその背中に甘えてしまう。
次に目を開けたときには、上着もシャツも脱がされていて、久しぶりのキスに心も体も甘くとろとろに煮詰められる。
仕事のこともここのところの週刊誌騒動も、ずっとぶつくさ言っていた工藤への文句も、何もかもがふっとんで、どうでもよくなる。
良太はよく知っている工藤の匂いに包まれて熱い息を吐いた。
煙草や工藤の愛用しているちょっとスパイシーな夏用のフレグランスだ。
「放っておいたからか? えらく熱いじゃないか」
なんて言葉にさらに発熱した良太は、もうこのままどうにでもしてくれ、な幸せ気分の中で、工藤に与えられる波に揺すられながらひたすら甘い戦慄を享受した。
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