「何余裕ぶっこいてんだよ、きさま」
「やつの代わりを立てればいいだけの話だろ? 俺に妙案がある」
あくまでも藤堂は暢気そうに答える。
「ほう、言ってみろよ。尾崎は鴻池物産の方で指名してきたキャストだが、中川アスカの添え物としては駆け出しでもいいセンだったんだ。ギャラ的にもな」
河崎は忌々しげに煙草をくわえる。
「ギャラ的には高くなく、かといって添え物としてのそれなりの存在感…だろ?」
藤堂はクルリと良太を振り返る。
「良太ちゃん、ちょっと」
良太はおいでおいでをされて、藤堂の傍に行く。
「タッパは申し分ない。もうちょっとお肉があればだが、スーツを着せるからさほど問題あるまい。顔はこの通り可愛い。世に知られていないが、存在感はバッチリ」
まるで商品になって品定めをされているように自分のことを端的に断定されて、良太は目をパチクリ。
河崎にもジロリと頭の先から足の先まで見分されて、良太はちょっとたじろぐ。
ひとすじ煙草の煙を吐き出すと、河崎は「ウーン」と唸る。
「まあ、いけるかもな」
すると、それまでイタリア語でがなり立てていた工藤が一瞬良太に目を移し、そしていきなり電話を切った。
「待て待て待て! 何を言ってるんだ、お前ら! バカも休み休み言え!」
すぐさま工藤は彼らの中に割り込んだ。
「悪い話じゃないでしょう? こいつならいけますよ、きっと」
「河崎さん、言うに事欠いて、あんたプロだろ? こんなど素人が使えるわけがない」
「いや、ど素人がいい味出すこともあるし、彼なら完璧ど素人とはいえないでしょう? スポンサーも納得させられますよ、良太ちゃんなら」
藤堂もまた工藤に言い返す。
「やっぱだめでしたじゃすまないんだぞ? でかいプロジェクトなんだ。金の動きも並大抵じゃない。鴻池の方でも力の入れ方は半端じゃない。コレに商品価値があったら、タレントなんかいらん」
工藤は良太の耳元で怒鳴る。
コレってなんだよっ!
思わず良太もカチンとくる。
どうせ俺はろくな価値のない男だよ! キショーメ!
「あたしもいけると思ったわ、良太なら」
「お前は黙ってろ!」
ぴしゃりとはねつけられたにもかかわらず、アスカは尚も言い募る。
「仕事でまで良太を拘束する権利は工藤さんにだってないと思うわ!」
おいおい…仕事でまでって何だよ…
良太は心の中で密かに突っ込みを入れながら、でもアスカの言い分に頷く。
剣呑な空気が漂う中、電話が鳴り響いた。
良太は傍にあった電話を取った。
「はい、青山プロダクション…え…工藤、ですか? はい、おりますが…」
通りのいいきれいな声の主は、カエと名乗った。
「そういって下さればわかると思うわ」
良太の心を走る一抹の不安。
「工藤さん、カエさんって方からお電話です」
「カエ…?」
訝しげに工藤は良太から受話器を受け取る。
「もしもし、ああ、お前か」
良太は思わず聞き耳を立てる。
「今忙しいんだ、またに…え…何だって?」
さっさと切っちまえ、と心の中で呟いている良太の思いをよそに、工藤はそのまま話し込む。
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