「何で、今、そんな電話をかけてきたんだ? こっちとしてはタイミングがよすぎるぞ。ああ、なるほどな、それでか。いや、渡りに船って感じだ。ぜひ使わせてもらいたい。ああ、わかった。また連絡する」
電話を切ると、工藤は面々を振り返り、「ヴィラは何とかなりそうだ」と言った。
「リヴィエラにいる知り合いがたまたま俺が探していたのを聞きつけたらしい」
「知り合いって、現地妻の間違いじゃないんですか?」
藤堂が茶化して言った。
「バカ言え。高校のクラスメイトだ。向こうの金持ちと結婚してずっとイタリアに住んでる」
一応工藤は藤堂の発言をはねのけるが、良太は内心、怪しいもんだ、と呟いた。
「カエ、っていいましたよね? ひょっとして、加絵・ジョヴァノッティじゃないでしょうね?」
「よく知ってるな、藤堂」
工藤は面白くもなさそうな顔で聞き返す。
「加絵・池田・デ・ジョヴァノッティといえば、イタリアファッション界ではいまや知らないものはないでしょう。最近年老いたダンナが亡くなって、美人な噂の未亡人」
「ダンナ、死んだのか」
それは工藤も知らなかった。
「まさか、そんなところまで触手をのばしていたとは」
藤堂が更に突っ込みを入れる。
「だから、昔の知り合いってだけだ。とにかくヴィラは何とかなるだろう。あとは…」
「俺、やります!」
工藤の言葉を遮るように良太は断言した。
「お前、何をバカなこと…」
驚いた工藤は怒鳴るのも忘れて良太を睨みつける。
「代わりを探す猶予もないんでしょう? だったら俺がやります」
「バッカやろ! 遊びじゃないんだぞ!」
工藤は仁王像のような顔で良太を見据える。
「わかってますよ、それくらい。でも、工藤さんには見つけられなくても、河崎さんや藤堂さんなら見つけられる価値が、俺にだってあるかもしれない」
負けじと良太も工藤をじっと見返す。
「おい、良太、お前…」
工藤は一瞬言葉に詰まる。
「旅行はどうするんだ? 家族との」
「仕方ない。今回は謝ってパスります。みんなきっとわかってくれる」
思わず工藤の視線を外して、良太は俯き加減にボソリと呟く。
「ようし、これで決まりだ。いいじゃないですか、工藤さん。良太ちゃんもやる気になってるんだし、終りよければ全てよしって言いますし」
妙に明るく藤堂が場を収めようとする。
「勝手にしろ!」
工藤が言い放つ。
「勝手にします!」
良太が言い返す。
良太はデスクに戻り、黙ってパソコンを立ち上げた。
工藤は苦々しい顔を崩さず、煙草を噛む。
「工藤さん、俺は失敗はしない主義なんだ。任せて損はさせませんよ」
良太やアスカとしばらく打ち合わせを済ませると、河崎は自信ありげにそう断言してオフィスを去った。
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