ACT 3
石造りの建物の中は、入ってすぐ一瞬ヒンヤリするのだが、これだけぞろぞろとスタッフが入り込むと、空調が効いていてもちょっと動くだけで汗ばんでくる。
秋から放映予定のCMでは、この猛暑の中アスカと良太は秋物を着ているため、半端じゃなく暑いのだ。
ボルゲーゼ公園の近くにある富豪の別邸を借りて、ローマ編のCM撮影が続けられている。
CMだけでなく、ドラマでもういずれこの屋敷を使うことになっている。
「ああ、まだ緊張してるな。良太ちゃん、力抜いて」
せりふがあるわけではないが、力を抜けといわれて簡単に抜けるものでもない。
どうにか撮影は続いていくものの、工藤にあんな啖呵を切ってしまったことを良太はどれだけ後悔したことか。
しかし、もう後には引けないのだ。
工藤に恥をかかせるようなまねだけは絶対するわけにはいかない。
ローマにきて三日目、工藤とは必要最低限の言葉しか交わしていない。
ただ意地を張っているだけなのだが。
代わりにCMの総合プロデュースをしている河崎からはビシバシ罵声を浴びせられ、しょっちゅうへこたれそうになる。
工藤の方は何ら口を出すわけではなく、冷ややかに静観しているのがいつもより恐ろしく思える。
「はい、じゃあ、ちょっと休憩ね」
CMディレクターはにこにこと穏やかな人だ。
コンテに従って数カット撮ったところでクルーが走る。
メイクさんが汗を拭いてくれる。
いつもは、暑い、どうにかして! なんて喚いているアスカだが、撮影中は文句一つなく、しかも涼しげな顔をしているのを見ると、さすがだよな、と良太は頭が下がる。
呆れてるんだ、きっと。
そんな力もないのに、勝手にやるなんて言って、こんなバカなやつ、もう愛想つかしてるんだ。
時々工藤の冷たい視線に出くわすと、良太はこのまま地中海にでも飛び込んでしまいたくなる。
「あんたがそんな鬼みたいな面で見てっから、良太のやつ緊張しまくりじゃねーか。工藤さん」
CMのポスター撮りのために、井上も昨日一行に合流した。
「良太使うんで、ひと悶着あったんだって?」
工藤の横に立ち、煙草の煙を吐き出すと、井上はミネラルウォーターのボトルに口をつけ、半分ほども飲み干した。
「でもさ、商品価値がないなんてのは、ちょっと良太かわいそうじゃん。俺はあいつ結構タレントでもいけると思ってたけどね」
「…るせーな」
工藤は井上にさして反論もせず、フラリと部屋から出て行った。
何百年も前に作られた屋敷の階段は少しかび臭かった。
部屋の中だけにとどまらず、階段の壁にも古めかしい額に縁取られた絵が所狭しと飾られている。
あのやろう、意地になりやがって、人の顔もまともに見やしない。
商品価値だなんだと、いつも俺が口にしてるのを聞いているはずだろうが。
それを揚げ足とりやがって!
…いつ俺が、お前に価値がないなんて言ったよ…
工藤は工藤で意固地になっているのはわかっていたのだが。
とりあえず好きにさせておくさ。
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