休憩になっても、ぐーんと落ち込んだ良太は、部屋のかたすみにうずくまっていた。
「なーに暗くなってんのよ。良太なかなかうまくやってるよ。初めてやったにしちゃ、もう上出来」
アスカが傍にきて声をかけてくれる。
「ヘタな慰めはいいよぉ」
CMに出るんだ、カッコよく映るから今回はごめん!
妹の亜弓は一緒に旅行に行けないことを伝えると、ブーブー文句を言っていたが、それなら、と納得してくれた。
楽しんでこいよ! と言うと、兄貴もしっかりやってよね、大学の友達にも宣伝しとくから、と激励をくれた。
だけど、ああしろ、と言われてすぐにできるものなら、もうとっくに俳優でも何でもやっている。
結局こんなテイタラク。
現実はやはり厳しいのだ。
あ~あ、ナータン、淋しがっていないかな~
鈴木さんがたまに猫の画像を送ってくれるのだが。
早くも逃避にかかっている。
「弱音吐いてんじゃないわよ!」
いきなり耳元でアスカが怒鳴る。
ヘ…と顔をあげた良太にアスカはさらに詰め寄った。
「いい? あんたの一挙一動にこのプロジェクトはかかってんのよ? あんたがヘマすることは許されないの! ここまできて工藤さんの顔、つぶす気?」
う~~~~~~~~~~!!
痛いところをついてくる。
全く、人の行動パターンを把握してるよ。
「よっしゃあ!」
良太は気合を入れて立ち上がる。
「まあまあまあ、良太ちゃん、そう力入れなくてもいいんだよ。ウルトラマンになって地球を救うってわけじゃないんだから」
いつものごとく、飄々とした口調で藤堂はにっこりと声をかけてくる。
「いいかい、良太ちゃんは、良太ちゃんそのまんまでいいから、オフィスにいる感覚、それでいいから。アスカさんとおしゃべりすることだけを考えてればいいんだよ。わかった?」
「はあ」
こっくりと良太は頷いた。
イタリアに留学している音大生と出張でイタリアにきたサラリーマン。
仕事でちょっと失敗し、へこんでいる彼を部屋に誘い、そんな時はカフェラッテを一口。
芳醇な香りがあなたの心を癒します。
どこにでもありそうなコンセプトではあるが、クライアントは突飛な発想は好まない、ただ、芳醇さをリッチで豪奢な気分で表現して欲しいというわけだ。
本物を感じさせるカフェラッテを売りにしたい。
だから本物のローマの屋敷を使い、クォーターであるアスカのエキゾチックな彫りの深い顔立ちがヨーロッパの雰囲気を裏切らない。
逆にいかにも日本人的なあっさり系しょうゆ顔で可愛い、尾崎貴司を対比させ、彼がカフェラッテを飲んで一息つく、というのが、当初のシナリオだ。
あくまでも本物嗜好で、というのが狙いのようである。
「井上さん、機材もう運んじゃっていいっすかぁ?」
「おう、いいぞ」
茶髪の小柄な青年がテキパキと井上の機材を車へと運び込む。
ローマの夏の日はなかなか暮れない。
ここ一年ほど井上のアシスタントを務めている太田聡は、早く遊びたくて仕方ないらしい。
「何かいいセンいってんじゃん。良太、ここんとこちょっと雰囲気変わったよな」
渋面を崩さない工藤に、井上が言った。
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