「さっきポスター撮りでファインダーから覗いてて思ったよ。背筋がピンと伸びたっていうか。風格っつうのか? ひょっとして初めから尾崎なんかよりよかったかもよ?」
井上に横で説明されるまでもなく、カメラの向こうの良太は開き直ったのか、さっきまでおどおどして見えた緊張感がふっと消えたように見える。
客観的に見ても、井上の言う通りかもしれない。
確かに、俺には見つけられなくても、河崎とかが見つけてくれるものがあったってことか。
工藤は苦笑する。
いや、心のどこかで、それは気づいていたのかもしれない。
ただ、良太がどんどん脱皮して、自分の手から離れていくのが嫌だったのだ。
良太はモヤシの良太のまま、手元に置いておきたいと、どこかにそんな思いがあったのだろう。
ちゆきがいなくなってから、人に対してそんな執着を持った試しはなかった気がする。
万里子にしろ、アスカにしろ、これまでに関わり合ったタレントや俳優に対して、こいつをさらに飛躍させてやろう、とは考えたが、脱皮することを恐れる理由は何もなかった。
自分にとってやはり彼らは「商品」だからだろう。
クソ…くだらない感傷だ。
自嘲しながら工藤はじっと良太の一挙手一投足を追う。
「なかなかいいものになりそうだな」
不意に背後から声をかけられて、工藤は振り向いた。
「鴻池さん、お世話になります。いつこちらへ?」
「ついさっきね。フィウチミーノ空港で捕り物があったらしくて、ここまで辿り着くのがちょっと遅れた」
にこやかに工藤と話す痩身の男は、一見して年齢不詳、容姿端麗なのは誰の目にも明らかだ。
工藤より目線が少し下がる程度で、上等のスーツを隙なく着こなし、いかにも育ちがよさそうな雰囲気を持っている。
「それは災難でしたね」
「はは、こちらではそんなことは日常茶飯事だろう。それより、彼、いいね。急遽キャストを変更するというので、ちょっと心配していたんだが、尾崎貴司よりぐんといい。君の事務所のタレントだって?」
「え、ああ、まあ、うちの者ですが…」
工藤は複雑な思いで言葉を濁す。
鴻池和路、四十二歳。
財界の大物である鴻池産業傘下の鴻池物産専務取締役である。
とても二児の父親とは思えぬ中性的な雰囲気を持つ鴻池は、工藤にとって大学の先輩にあたると同時に、MBC入局後も父親の急逝によって鴻池産業に戻らざるを得なくなるまで、工藤を可愛がってくれた。
鴻池を追うようにMBCを辞めたのも、彼があってこそ、局内で自由に動けたのだということを、工藤もよくわかっていたからだ。
中山会組長の甥という生い立ちは、彼が全く組とは関係ないとわかっていたとしても、幹部連中からすれば十分煙たい存在だったろう。
「そうか。君の事務所なら、安心して任せておいてもいいだろう」
相変らず鴻池は暗黙のプレッシャーをかけるのがうまい。
優しそうな風貌に騙されると後が怖い。
その実非常に冷酷な面も持ち合わせ、MBC時代も超クールなプロデューサーとして知られていた。
その点では、工藤は十二分に鴻池の後継者だった。
つい近年までは。
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