「よし、お疲れさま~」
ディレクターの声で一斉に空気が開放感に満たされる。
「お疲れ、バッチシじゃん、良太」
すぐ傍にいるアスカの声が遠く聞こえる。
周りのみんなも何か言っているがよくわからない。
良太は顔をあげてその男を探す。
まっすぐ向こうにようやく工藤の姿を見つけた。
え、あれ、誰? 工藤さん、誰と話してるんだ?
ガクッと膝が崩れる。
「きゃあ、良太」
さっそく前途有望な君の新人さんを紹介してくれ、と鴻池に言われ振り向いた途端、良太が前につんのめるのが見えた。
すぐさま駆け寄る工藤より先に、藤堂が良太を抱きかかえた。
「おーっと、大丈夫か? 緊張の糸が切れたんだな。もう、終わりだからな。とりあえず、ローマは」
「…とか何とか、またプレッシャーかけてる…藤堂さん」
「減らず口を利ければ、心配することもないな」
見上げると工藤が立っていた。
ムッカつく~~! 何だよ、ちょっとねぎらいの言葉くらいかけようって気にならねーのかよ。
「大丈夫です」
さっきまで、工藤にあんなことを言わなければよかったと、どん底状態に落ち込んでいたのも忘れて、ついついつんけんしてしまう。
「広瀬良太くん? 君とは初対面だね。鴻池だ。よろしく」
いきなり自己紹介され、良太は戸惑いながら差し出された手を握った。
反応が鈍くなっている頭をフル回転させ、その男がクライアントであることにようやく思い当たる。
「よろしくお願いします」
できる限りにこやかに笑ったつもりだった。
だが、ふとその男の瞳を覗き込んでしまった良太は、あまりの冷たさに鳥肌が立つ。
その男の眼差しから何やら残酷な匂いを嗅いだ。
いや、気のせいだろう、と言い聞かせようとするが、胸騒ぎはおさまらない。
「私はリヴィエラにも同行するから、またそのうち食事でもしよう」
にこやかな笑みを浮かべ、鴻池は工藤を伴って良太の前から消えた。
「何か、やなやつ。そう思わない? 良太」
「え…」
表裏のないアスカは、案外人に対して敏感に反応する。
だが、あくまでもクライアントだ。
良太には心に浮かんだ定かならぬ不安材料を吐露するつもりはなかった。
「さあて、とりあえずホテルに戻るか。良太、リヴィエラへ立つのは明日の午後だから、存分に遊んでいいぞ」
秋山が笑う。
…といわれましても…
遊ぶより、ホテルに帰ってとにかく眠りたい、良太は曖昧に頷くと、重い足取りで部屋の外に出た。
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