ローマとは打って変わって、撮影は殊のほか順調に進んだ。
何だか開き直った良太が妙にしっくり絵の中に収まって、ディレクターもうんうん頷いている。
「いいよ、いいね、良太ちゃん!!」
藤堂が手放しで誉めまくる。
「良太、お前やっぱこれからこっちの仕事でいった方がいいんじゃねー?」
井上までが面白がってからかう。
開き直ると、怒鳴られっぱなしだった河崎に言われたことひとつひとつがなるほどと思えてくるから不思議だ。
このリヴィエラで撮影に入ってから、その河崎の良太への注文もほんの二言三言だ。
ただ、相変らず良太が一番言葉が欲しい相手からは依然挨拶程度の言葉しかもらっていない。
このヴィラにきてからというもの、工藤の傍にはべったり加絵が寄り添っている。
クラスメイトかなんか知らないけどさ………
このヴィラの女主マダム・ジョヴァノッティは、その年齢にそぐわぬ瑞々しい美貌を持ち、気品と知性に溢れ、おおよそ良太がまともに立ち向かってかなう相手ではないように思われた。
撮影が終ったその夜、加絵の息子たちも駆けつけ、賑やかにパーティを開いてくれた。
前妻の二人の息子は既に成人して、長男のイッポーリトはエリート商社マン、次男のエンツォは大学に通いながらモデルなどをやっている。
加絵の夫、グィド・デ・ジョヴァノッティが亡くなった後、フィレンツェの屋敷とトスカナの田舎にある城や葡萄畑はイッポーリトが、ミラノの屋敷はエンツォが、そしてこのヴィラは加絵が相続した。
加絵と二人の息子たちは、ほどほどに良好で互いに行き来しあう仲らしい。
デザイナーとしての加絵の店は彼女自身が築いた財だ。
「にしても、狭い日本じゃ考えられねー世界だよな。スケールの大きさが違うぜ」
井上は惜しみなく振舞われたジョヴァノッティ家秘蔵のワインを散々味わいながら首を振る。
「加絵さん、すげー玉の輿ってやつ? ダンナもいないことだし、もうやりたい放題なんだぜ」
おまけにそんなことを良太に耳打ちする。
「大学時代は達也もたまにここのヴィラに来てたな」
「え、河崎さんもここにヴィラ持ってるんですか?」
こちらも美味しいワインに普段の倍はテンションが上がっている藤堂も、しきりと良太をかまう。
「いや達也じゃなくて、やつのじいさん。いざとなったらそこ使わせてもらおうと思ってたんだが、こっちも最高だね」
何だ、そっちを先に決めてればよかったのに。
そしたら加絵と会わなかったかもしれないのにさ。
「二人ともこっちにきてるから、今、会社、浩輔さんと三浦さんだけ?」
「あー、コースケちゃんはお兄さんとこ、三浦はお盆休みで実家帰ってる。明後日には戻ってくるって言ってるから、我々は明日一足先に東京に引き上げるけど、君らは大いに遊んでくるといい」
「しかし、河崎さんもすげーよな。秋に放映予定のローマ編、失敗したらこのリヴィエラ編も金いらないって言ったんだって?」
小声で井上が藤堂に尋ねる。
「ウソッ?」
良太はびっくりして藤堂を凝視した。
「まーた、どっかからそんな噂聞いたんだか」
藤堂がフフンと笑う。
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