クルーやスタッフ共々、河崎と藤堂は翌日、ミラノから日本に発ったが、一日オフを予定していた青山プロダクションの面々をイッポーリトがちょっとしたクルーズに誘った。
良太はやっとスーツから開放され、Tシャツに短パンでクルーザーに乗り込んだ。
ラフなシャツにパンツなんて工藤も久しぶりに見る。
「ヴィットーリオ!」
今日は真っ白なドレスに身を包んだ女主は、半そでシャツにズボンをきっちり着込んだジョヴァノッティ家の執事を呼び、客たちにワインやカクテル、果物やドルチェ、カナッペなどを載せたトレーを振舞わせる。
「工藤、浮かない顔だな。世の中、こんなに晴れ晴れとしているのに」
鴻池に肩を叩かれ、工藤は振り返る。
昔から鴻池は工藤に対しては優しかった。
彼の口添えがなければ、工藤がMBCであれだけの業績を残せたかどうかわからない。
「いや、ちょっと疲れただけですよ」
「部下がちゃんとやるかどうか、心配で?」
工藤は苦笑する。
「ドラマにもぜひ出して欲しいな」
「また、その話ですか。あいつはタレントなんかには向きませんよ」
「彼には無限の可能性がある。もっと羽ばたかせてあげるのが君の仕事なんじゃないのか?」
「何と言われても、ダメです」
「随分過保護なんだな?」
イッポーリトがやってきたので、その話は自然中断した。
無限の可能性か…そんなことは俺だってわかっている。
わかっているが…。
工藤は煙草を噛みながら、イッポーリトのヨットの自慢話を上の空で聞いていた。
しばらくイッポーリトと話し込んでいた工藤がひとりになった頃を見計らって、良太はやっと恐る恐る声をかけた。
「何か俺、すんげー得した気分です。こんなとこ連れてきてもらえて」
「そうか」と工藤の返事はやはりそっけない。
やっぱ、俺なんかこんなとこにいられる資格なんかないくせにって思ってんだろーなー
良太は苦笑いする。
「たまにはこんなこともいいさ。まあ、また今度親孝行してやれ」
はっとして、良太はワインを飲み干す工藤を見上げる。
自分が価値だの何だのくだらないこと考えていたのに、工藤は良太と一緒に旅行に行けなくなった両親の気持ちを考えてくれていたのだ。
自分がこの仕事をやると言った時に、工藤は何と言ったか?
「旅行はどうするんだ?」
そう言ったのだ。
「工藤さん、俺…」
とにかく謝ろう、そう思って声をかけた時、「工藤」と鴻池が呼んだ。
工藤は良太の頭をくしゃっと撫でると、鴻池やイッポーリトと仕事の話を始めた。
ドラマでもこのヴィラを使わせてもらうことになっているので、その打ち合わせもある。
心が何となく軽くなって、良太は今までの自分がいかにバカだったかと改めて思う。
ところが、そんなほんわか気分は束の間だった。
「あんな高広、見たことあったかしら」
知らない間に傍に来た加絵が微笑んでいた。
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