「そんなにタレントになりてーのか? だったらいくらでもお膳立てしてやるぞ。俺を甘く見るなよ? てめーの一人や二人スターにしてやるくらい朝飯前だ」
語気も荒く、工藤は言い放つ。
「誰がいつ、あんたを甘く見たよ! 俺にだって可能性があるんならって言ってるだけだ。そしたら、金だって入るだろうし」
「そんなに金がほしいのか」
「あんたに借りてる金だって、もっと早く返せるかもしれないし…」
「ちょっとばかし、CMなんかに出たくらいで、思い上がるんじゃない! 身の程をわきまえろ。明日発つまでによく頭を冷やすんだな!」
ドアを閉めて工藤は舌打ちする。
自分の傍から離したくないばかりに勢いにまかせてついまた高圧的なことを言ってしまったことを後悔する。
だがとにかく、東京に戻ってしまえばあのバカも目を覚ますだろう。
第一何で加絵にあんなにこだわるんだ。
工藤は苛立たしい思いのまま自分の部屋に引き上げた。
あまり眠れなかった工藤は、良太のことを考えてうだうだしていたものの、翌朝十時にはベッドを降りて身支度を整えると、十一時頃、朝食が済んだ頃を見計らって出発前のミーティングをするべく秋山に電話を入れた。
だが秋山の背後が何やら騒がしい。
「何だって? ミラノにいる?」
帰ってきたのは意外な言葉だった。
慌てて秋山に言われたとおり、ホテルのフロントで尋ねると、秋山から預かっているという封筒を差し出した。
中を開けると、そこには三日後の火曜日、「ミラノ発十四時五〇分発のアリタリア航空786便のチケットが二枚入っていた。
アリタリア航空7787便、ミラノ発二十一時十五分発、当初の予定ではそうなっていたはずなので、ゆっくりしていた工藤だが、アスカに秋山、それに井上と彼のアシスタントはとっくにホテルを経ったという。
秋山のメモ書きには、十四時五〇分発の786便に乗ると書いてある。
「何やら、良太としっくりいってないみたいなんで、二人でしばらく観光でもしてください。社長はちょっと働き過ぎです。ミラノのホテルに部屋はとってあります。良太には出かける前に部屋にメモ入れておきました。どうぞごゆっくり」
「何がごゆっくりだ!」
しかし、確かにこうでもしないと休みも取らなかったかもしれない。
工藤は笑い、部屋に戻ろうとすると、またフロントに呼び止められた。
もう一通、工藤宛のメモがあるという。
胸騒ぎがしてそれを引っ手繰るようにとると、案の定、良太だ。
「いろいろ生意気を言って申し訳ありませんでした。彼らは加絵さんとのことを知りませんし、せっかくの秋山さんたちの計らいですが、自分は先に東京に戻らせていただきます。」
「あのバカ!」
工藤は、何時頃良太が出たか確認する。
「三十分ほど前になります。お迎えの方がいらっしゃいました」
「迎え?」
「はい。ジョヴァノッティ家のエンツォ様でございます」
何だと!?
次のジェノバ発ミラノ行きの便は十二時になる。
三十分前だと次の十三時発でなければ間に合わないだろう。
それに空席を探す手間もある。
今日の十四時五〇分の東京行きには乗れないはずだ。
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