「今日は秋に出す『久遠』の編集会議です」
少し頬を赤らめながら少女は答えた。
「へえ、だって君ら三年だろ? 夏期講習とか忙しいんじゃないの?」
「でも『久遠』は今年で百号の記念号だから気合入ってて、私らも顔出してきたんです。すごいですよね、ほぼ年一回か二回発行だからもうずっと脈々と続いてるってことで。元気さんの随筆もちゃんと三回載ってましたよ」
今度は元気の方が顔が赤くなりそうだった。
「いや、随筆なんてもんやないし、俺の文なんか読まなくてもいいって」
「でも、華ちゃん、いくら歴史があるっつーたって、『久遠』とか、ダッサぁ。もっと今にあったタイトルにしたっていんじゃね?」
「ダメだよ、サムちゃん、歴代OBが許すはずないじゃん」
茶色がかった髪といい、ピアスといい、このサムちゃんなるちょっと軽そうなチャラ男くんが華ちゃんの彼氏だというのが、傍から見ると意外な組み合わせなのだ。
サムちゃんの言うところによると、元々はご近所の幼馴染で、色々な女子とつきあったもののやっぱり華ちゃんが好きだと告ったのが、この春のことらしい。
二人は一年の時から文芸部員で、夏休み前に引退するまでは華ちゃんが部長でサムちゃんが副部長。
華ちゃんの志望校が東京にある難関の医学部であるため、サムちゃんも東京の有名私大を受けるという。
二人が末永く続けばいいけどね。
可愛いカップルだと応援しつつも、ついそんなオヤジフィルターで見てしまう自分を、元気は嗤う。
高校時代からの付き合いで結婚しましたなんて話もたまに聞くが、まあ大抵は進学や卒業を理由に別れるかそのままフェイドアウト。
卒業して続いたとしても、モラトリアムから下界へ出てみるとその広さや人の多様さを知らされ、ましてや田舎から都会へ出て行ったりした日には、それまで自分がいたところが、或は周囲の人間がひどく色褪せて見えたりする。
それが錯覚と気づく頃には、何もかもがもう思い出になってしまっているのだ。
元気にも卒業イコール別れの経験があった。
「この詩、宮澤検事補ってこれ、元気のことでしょ?」
二年の梅雨晴れの放課後、元気はたまたま部室で季刊誌の編集を手伝わされていた。
当時の文芸部長は美人の才媛、三年の向井聖子と言った。
唐突に指摘されて、元気はちょっと驚いた。
実は華ちゃんに言われたように岡本元気の名では随筆のようなものを書いていたのだが、当時よく見ていたアメリカのクライムサスペンスに検事補がよく出てきて、好きな作家の宮沢賢治をもじった宮澤検事補などという深い意味もないペンネームで、別に詩を書いていた。
伝統の部にしては部員数も少なかったせいか、ペンネームを使い分けている部員もチラホラいたが、宮澤検事補が誰なのかは誰も知らなかったはずだ。
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