真夏の危険地帯22

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 詩も歌詞も元気の中では同じ引き出しに属し、今も市内の同人誌にこっそり参加しているのだが、昔から書き綴ったノートはかなりの冊数になる。
「この詩なんか、宮沢賢治とか三好達治とか元気の好きな作家のニオイでいっぱい」
「そう…すか?」
 言い当てられたことがきっかけで前より言葉を交わすようになり、ちょうど元気は前の彼女と別れて間もなかったのだが、聖子が部長を引退する前にはつき合っていた。
 ふと、豊満ボディな先輩だったななどと、元気の脳裏に部室で二人きりだったシーンが蘇る。
「いい思い出をありがとう、元気」
 彼女が卒業した日、二人で川べりを歩いている時、唐突にそう言い、やがて彼女はこの街を去って行った。
 別れなど考えもしなかった元気は何も言葉を返せなかった。
 傷心を抱えて当時よくいりびたっていた医務室に行くと、赴任二年目の若い校医が言った。
「振られたか?」
 このヤローとも思ったが、元気がため息をついて丸椅子に腰を降ろすと、見てくれがよくて言動がちょいワルなところがいいと女子に騒がれている不埒な顔が近づいてきた。
 えっと思った時にはキスされていた。
「ショック療法」
 ニヤリと笑った顔は久しぶりに思い出してもやはり忌々しい。
 くっそ、余計なことまで思い出したじゃないか!
 あの校医はまだ学校に居座っているらしいが。
「ありがとうございました」
 仲良く店を出て行く可愛い後輩カップルを見送りながら、あの時お蔭で確かに割とスッキリとして三年を迎えられたのだと、すっかりノスタルジックに浸ってしまった元気は苦笑いする。
 いつか二人が離れることになるとか、前に何が待っているかなんて気にもしないで一生懸命なのがピュアな恋というやつだろう。
 ピュアな恋……ね
 心の中で呟いた途端、元気はいきなりリアルに引き戻される。
 ピュアな……
 そう、最初あいつらを見た時、そんなことを思ったんだ。
 優花は豪のことが本当に好きってのがもう全面に出ていて、身体はでかいくせに、はにかみがちに笑う豪とは幼馴染み、ちゃんとつき合い始めたばかりだと、優花は幸せそうに笑ったのだ。
 あいつらを別れさせようなんて思っても見なかったはずなのに。
 そんなピュアな二人に割り込んだのは俺。
 それこそ来るもの拒まずで、それこそチャラ男だったかもだけど、不倫とかフタマタとかきらいだったし、まさか優花から豪を取り上げることになろうなんて。

 


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