「四年前は、それに豪の元彼の優花ちゃんまで絡んでたから、お前、身を引くつもりで、田舎にひきこもったんだろ? けど、今は一応、お前と豪がくっついて、優花ちゃんも容認して事務所で仕事してるわけで、ああ、今は確か優花ちゃん、マサとつき合ってるんだし、お前、もうバンドに戻るのが一番いいんじゃね?」
元気は将清を見つめた。
「お前、何でそう詳しいわけ?」
「俺をみくびるなよ?」
将清はニヤリと笑う。
「とにかく、確かに、昔のことは一応、落ち着いたにせよ、俺はもう「GENKI」を脱退したんだし、自分の店をこれからも守っていくだけだ」
「んっとに、お前、頑固だな」
首を横に振りながら将清は笑った。
三人は一杯ずつ追加オーダーすると、閉店間際までいつものごとくどうでもいいことを語り合い、休みが取れたら元気の店に遊びに行く約束をして、将清と優作は帰って行った。
爆睡した翌朝は、約束の七時半きっかりに葛城が部屋をノックし、元気を新横浜の駅まで送ってくれた。
家に辿り着いたのはちょうど十二時半。
「お帰り、元気、早かったのね」
「ああ、ただいま」
母親におざなりに返事をすると、元気は部屋に上がってそそくさと着替える。
アルバイトの紀子には午後から開けると言ってあったし、すぐに向かえば十分間に合うだろう。
寂しかったと甘える愛犬リュウをひとしきり撫でてやってから店に出向くと、元気はドアを開けた。
午後の客が一段落ついたところで、元気は紀子と自分のために、アイスコーヒーを入れた。
「紀ちゃん、一休みしよう」
この町は盆地なので、東京のような酷暑ではないものの、日中はそれなりに気温が上がり、ここ数日は猛暑が続いている。
だが、やはりあのビルが林立する街中の熱気が淀んだ暑さと、自然の風が通り抜ける空気では質が違うと元気はあらためて思う。
「また、雷、鳴ってんな、一雨くるかな」
元気は窓の外に目をやりながら、呟くように言った。
こうしていると昨夜のことも何だか夢の中のできごとのような気がしてくる。
やっぱり俺の居場所はここだよな。
「何、紀ちゃん、何か今日、えらく静か過ぎないか?」
ふと気になっていたことを口にする。
今日は団体客がどっときたりで忙しかったせいかと思ったが、そういえばいつものおしゃべりがない。
「別に」
そう言いながらも紀子は元気を斜に睨むように見る。
「別に、って、何かあるって顔に書いてあるぞ。どうした? ははあ、さては克典とまた喧嘩でもしたんだろ」
喉が渇いていてアイスコーヒーをあっという間に空けてしまった元気はカウンター越しに紀子を見つめた。
「そんなんじゃないわよ」
確かに言葉が固い。
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