夏を抱きしめて12

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    ACT 4

 パニックという言葉にはさほど縁がなかった。
 世界を飛び回り、危険な地域にも足を踏み入れたことがあるが、そういう場所ほど常に冷静に周囲を見、冷静に判断して動く。
 でなければカメラマンなど務まらない。
 はずだった、あの時までは。
「わりぃ、葉子ちゃん」
 ファインダーから朔也の動きを追いながら、豪は近くに立っていた顔見知りのADに声をかけた。
「ジーパンのポケットでさっきから携帯鳴ってんだけど、ちょっと用件聞いといてくんないかな?」
 言いつつシャッターを押す。
 いつ、いいショットが撮れるかわからないから、常に目は朔也を追っていた。
「はーい」
 若いADの葉子は人気カメラマンの豪や、俳優の朔也がいることだけでもめちゃくちゃ喜んでいたのだ。
 その豪に頼まれごとをされた日には舞い上がり状態で、豪のポケットからコールしている携帯を取り出して言った。
「はい、ご用件はなんでしょう?」
 仕事中の豪に代わって出ている誰々だが、とでも名乗れば、まだマシだったかもしれない。
「もしもし?」
 だがすぐ相手は切ってしまった。
「何だって?」
「切れちゃいました」
「そう、サンキュ」
 よもや元気が電話してくるはずがない。
 豪は信じ込んでいた。
「お疲れ様でした~」
 仕事が終わったのは珍しく早くて十一時少し前。
 器材を背負って、スタジオのパーキングに停めてある車へと歩きながら、そういえば、さっきの電話、誰からだったんだろう、と思い出し、豪は携帯を取り出して着信履歴をチェックした。
 元気。
 自分で入力した二文字が画面に浮かんでいる。
 しかも二度。
「ウッソだろ!?」
 危うく器材を足の上に落としそうになるほどの衝撃に、どうしよう、どうしよう、とオロオロ辺りを見回すが、何も目に入っていない。
「何で、だよぉ、そんな……」
 ようやく携帯で元気を呼び出してみるが、何度やっても『……電波の届かないところにいるか電源が……』入っていないのだろう。
 器材を担いだまま、車の周りをウロウロと歩き回りながら、今度は伽藍にかけてみるが、何度かかけても出るようすはない。
「とっくに、店閉めてるよな…家、にかける時間じゃないしな~」
 田舎の十一時に電話をかけるなんて非常識にもほどがある、と怒られるに決まっているが、やはりここはかけないではいられない。
「緊急事態だ。元気ぃ、出てくれよ~」
『おや、豪さん』
 覚悟を決めてかけた電話に出たのは、元気の母親だった。
「あ………………、すっごい夜分にすみません、あの、元気は……」
『元気ならそっち行ってるけど』
「へ、そっちって東京、っすか?」
 東京にいる? どういうことだよ?

 


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