夏を抱きしめて18

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  ACT 5

 
 すっかり夜のとばりがおりた湾岸線を一台の古いチェロキーが猛スピードで飛ばしていた。
 今夜も関東地方は熱帯夜の連続記録を更新したらしい。
 夜空は晴れ渡り、月はまだ熱の覚めやらぬ街を煌々と照らし出している。
 雑誌に月イチで持っているページの撮影で、豪は四時頃から横浜を散策していた。
 夜景というテーマで毎月いくつかのスポットを決めて撮られたショットは読者にも評判がよく、いずれまとめてムック本として発表される予定になっている。
 編集部の担当者やライターと現地で合流し、夜になるのを待って横須賀、本牧、ベイブリッジと撮り続けた。
 終わったのは十時をまわった頃で、見計らったかのように豪の携帯が鳴った。
 残念ながら元気ではなかったが、みっちゃんからで、仕事が終わったのならすぐに来い、という。
 用件はそれだけだったが、何となく胸騒ぎがして、豪は挨拶もそこそこに指定された場所へと急いでいた。
「今日、結婚式だったら、携帯なんか切ってるよな」
 一人ハンドルを切りながら慰めてみる。
 時折、早いとこ誤解を解きたいとはかない期待をもって元気の携帯を呼び出してみるのだが、案の定、何十回と聞いた空しい返答が返ってくるばかりだった。
 朝を待って、関係者をあたりやっとADの葉子にコンタクトを取ったものの、想ったとおり、説明する前に切られちゃったし、だ。
「何で、肝心な時に出ねーんだよ、俺は!」
 自分を罵ったところで後の祭りだ。
 出かける前一、二時間ほど途切れがちな仮眠をとったものの、一晩、みっちゃんからの連絡を待ってほとんど寝ていない。
 自嘲的に今までの時間を思い返す。
 俺、どれだけ元気のこと見てたんだろ。
 元気が頼る人っていったい誰だよ?
 だって、何にも恐いものなんか、ないって感じだったし。
 唯一、って……まさか一平? あの人、頼れるって感じじゃないだろう。
 とはいえ、行ける時はたまにGENKIのライブに行っているが一平の圧倒的な存在感には気圧される。
 幻のギタリスト、なんて胡散臭い噂には半信半疑だったが、朝から情報を手繰って、どうにか入手した海賊版ライブCDで元気のギターを聴いた時、豪はぞっとした。
 音はすたれているどころか、前にも増して研ぎ澄まされている。
 GENKIは元気を連れ戻したがっている。
 得体の知れないプロダクションに渡すくらいなら、GENKIに戻った方がいいに決まっている。
 元気は否定するけど、元気がバンド抜けたのは俺のせいだ。
 オヤジさんが亡くなったのをきっかけにしただけだろう。
 きっと、きっと元気は元のさやに戻り、俺から去るに違いない。
「いやだからな! 俺はそんなの!」
 はあ……、やっぱ、一平んとこにいる可能性は大だよな。みっちゃんは知らなくても。
 ちぇ、クソクラエだ!
 やけくそ気味に、豪はアクセルを踏んだ。

 


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