総ガラス張りのバーはビルの八階にあって、BGMも気づけば流れている程度に静かな店である。
「将清もこういう店に足を運ぶほどには大人になったか?」
きらびやかな夜の街を見下ろしながら元気は笑みを浮かべる。
「言ってろ。夜景も酒も折り紙つきだ」
「カップルばっか」
将清が言うのに、江川は周りを見回した。
「いい店だな。俺の店よりちと落ちるが」
毛利と江川に続いて元気がカウンターに陣取った。
そう広い店内ではない。
数組の男女が窓際のテーブルを占領し、長いカウンター席もあと一人も座れば一杯だ。
「でもサギだよな、いつもはバリバリミュージシャンってカッコしてるのに元気のスーツなんか初めて見たよ、将清と二人、モデルさんですか、なんて女の子に囲まれちゃってさ」
それぞれの前にオーダーした酒が置かれると、江川がボソリと呟く。
「ああ、二次会、滞りなく終わってよかったじゃん、優作」
「俺はどうせ二人の引き立て役だよ」
「またまた、何すねてんのさ、お前が幹事だっていうから、出たんだぞ~」
元気は笑い、江川の肩に腕を回して、顔を覗き込む。
「うるさいよ、『幻のギタリスト』なんて言われてさ」
「おい、もうその眉唾な話題から離れろよ。酔ってるのか?」
江川を諭すように元気はちょっと声をひそめる。
「俺も聞いたぜ。どっかのプロダクションと涼子がその『幻』を巡ってやりあったってよ」
すっと元気の横に座りしな、威圧感だけで何者? な男が不躾に話に割り込んできた。
「え………何で?」
一平はバーテンダーにジャックダニエルズをロックで注文する。
「あっちぃ、クソ暑いのにお前らよくそんなもん着てられんな」
二次会では脱いでいたが、三人ともここではちゃんとジャケットを着ていた。
黒のTシャツに黒のジーンズという珍しくラフな姿で現れ、文句を言う一平の方がいるだけで相変わらず暑苦しい。
「大学の同期で佐野っていただろ? あいつの結婚式だったんだよ」
「さあ、物覚えが悪いからな」
「どうぞ」
バーテンダーに差し出されたグラスの液体を一気に飲み干すと、一平は一息ついてまた元気に向き直る。
「で、どうすんだ?」
「何をだ?」
「豪のことだ」
いきなりそうくるとは思わなかったので、元気は少々面食らう。
「別にどうもこうも……」
「俺の前でとりすました顔しても無駄だ」
元気の言葉を遮って、一平は元気の肩に腕を回す。
「女とイチャコラしてる豪が邪魔になったんで、無視してる、ってみっちゃんに聞いたぜ? で、俺んとこに戻る気になったか?」
うーんと元気は眉を顰める。
豪と付き合っているのがわかっていようがほとんど耳朶に唇がつかんばかりに言う一平を突き放すつもりもない。
ないが、例え豪が離れていったとしても、じゃあ、一平に戻る、とかはないだろう、いくら何でも。
いくら以前は好きだったとはいえ。
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