ACT 2
「今のすげー決まってた! 朔也さん」
坂之上豪はファインダーを覗きながら、被写体である俳優に思わず賞賛の声をかけた。
代官山の洒落たバーを借り切って、店が閉店した後に、TVドラマの撮影が進められている。
「フン、俺を誰だと思ってんだ」
聞きようによっては倣岸不遜な台詞だが、この美貌の俳優なら許されると周りが思ってしまうのだから恐ろしい。
川口朔也。
性格に多少難ありだが、実力は評価されているし、そんじょそこいらの女性にも負けないクールな美貌にも人気がある。
撮影の合間、豪はファインダーを通してひたすら朔也の一挙手一投足を追う。
朔也の写真集を出したがっていた事務所の社長から随分前にオファーをもらっていたのだが、当人がずっと渋っていたためなかなか実現しなかった。
「元気……怒ってたよな……」
ちょっと手を休めると、豪の思いはすぐに離れたところに住む恋人へと走る。
本気で恋人……って、思ってくれてんのかな、元気。
そもそも、俺が追っかけてって強引に住みついちまったことからして怒ってんのかも。
無意識のうちにポケットから携帯を取り出して見ている。
電話はおろか、ラインなんか来たためしがない。
「電話すんの、俺からだけだもんな。ちぇ……」
元気の店に電話をかけて怒られてから、既に五日目。
日に一度は携帯に電話したり、ラインしたりしていた豪だが、仕事に入ったのとちょっとした意地で、連絡を取っていない。
携帯、勝手に押しつけたのも気に入らないのかも。
元気、押しつけがましいの、大嫌いだもんな。
束縛されるのも。
壁にもたれて腕を組みながら難しい顔をしているので、『硬派なイケメン』などと勝手にキャッチコピーがつけられたりしたが、その実、グダグダと元気のことで頭の中は一杯なのだ。
ストーカーと言われようが何と言われようが、元気のことを諦め切れなくてT市周辺に通いつめて二年、元気の店も元気自身のことも遠巻きに見ていた。
そんな俺のこと呆れたよな~
とりあえず元気に受け入れてもらった豪ではあるが、考えれば考えるほど、元気に好きでいてもらうような要素が自分にはないように思えてくる。
ぶるると後ろ向きな考えを振り払うように頭を振り、睨みつけるように前を見据えると、メイクを直してもらっていた朔也が、次のシーンに備えているのが目に入った。
豪ははう~と大きくため息をつくと、愛用のカメラを手に仕事モードに切り替える。
シニカルな口調で文句を言ったり、ADや共演女優をからかったりしていた朔也が、一瞬のうちに表情を変える。
役そのもののように自然になりきっている、というのが昨今の朔也評だ。
そんな表情の変化を逃すまいと豪は夢中でシャッターを押す。
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