「そう、っすか、すんません。んじゃ、俺のギャラからさっ引いていいっすから」
小笠原はどこ吹く風、馬の耳に念仏、或いは大器のなせる業か。
「なーにが、大器だ! 笑わせやがる。一体、あいつ何してんだ?」
今日は雑誌の編集者との打ち合わせが入っていたのだが、その前のドラマの撮影が予想外に押してしまった。
良太がその編集者に電話でスケジュール変更を願い出たのだが、「かまいませんよ、別に遅くなっても。撮影が終わり次第、ご連絡くだされば」というので、ホテルに着いたのがほとんど十二時近く。
小笠原とは周知の間柄らしく、「お久しぶりです」という挨拶。
新洋社では売れ筋の女性誌記者で、田口と名乗った。
随分美人な編集さんだなとは思ったが、大人っぽいキャリアには、どうもキャスターの室井のことがあるせいか、先入観を持って見てしまう。
「良太、じゃ、適当に待っててよ。終わったら携帯鳴らすから」
小笠原が言うので、良太は挨拶もそこそこに車に戻り、アスカの出演するドラマのロケに顔を出して戻ってきて一時間。
良太は近くのバーガーショップで小笠原からの連絡を待っていた。
「大体、初めから人のこと呼び捨てにしやがって」
いくら、みんながそう呼んでいるからって、てめーに許した覚えはないぞ。
年は三月に二十六になる良太より一つ下の二十五歳。
良太が小笠原に勝っているのはそれくらいで、身長、体重、面構えひとつとっても負けている。
男らしく精悍だがさわやか、に見える。
最近、CMも出ずっぱりで、老若男女に人気がある。
高校までは体育会系、水泳をやっていて、そこそこの成績を持っているらしい。
同じ体育会系でも、良太とは何が違ったのか知らないが。
「あんのやろう、調子にのりやがって」
夕べも工藤のプロデュースするドキュメンタリー番組の企画書作りで半徹夜だったというのに。
ふわあとあくびをして、良太は携帯をチェックする。
そのうちこっくりこっくり始めて、知らず知らずうたた寝してしまった。
突然鳴り出した携帯にはっとして飛び起きた良太は、もう少しで携帯を落とすところだった。
「はい、ああ、今、近くのマック。すぐホテルの前に車回すよ」
携帯を切って時間を確認する。
「って、おい、三時半だぞ、まったく」
やがて窓ガラスをコンコン、と叩く音にドアを開けると、小笠原と一緒に田口もいる。
「お疲れ様です」
良太が声をかけると、二人は後部座席に乗り込んだ。
「送ってやってくれる? えっと、表参道だったよね。俺、あとでいいから」
「ごめんなさいね、良太さん」
やり手の編集者には遠慮という文字ももないらしい。
しかも、良太さん、とは馴れ馴れしい。
ファーストネームで呼べなんて言った覚えはないぞ!
心の中でどつきながら、良太はハンドルを切る。
しかしだ。
どうもバックミラーで何気に見やる二人のようすが、怪しいのだ。
しかも、キスぅ~~!!
思わず目を避ける。
タクシー運転手の気持ちがわかるというものだ。
って、そんな問題じゃあねーだろ!?
こいつ、まさか、今まで……………………!
その後の言葉は腹が立ちすぎて出てこない。
だが、これは明らかに、済ませてきました状態、以外の何者でもないだろう。
人を何時間も待たせておいて、女とやってた、だとぉ!
しかも、やってたのか、とはさすがに突っ込めない。
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