Act 3
ケンがハンスと再会したのは、夏のモンテカルロだった。
夏季休暇にアレクセイとロジァがハンスに誘われていたのだが、暇なら一緒に来ないかとアレクセイがケンに声をかけたのだ。
その頃、仕事が結構ハードだった上、ちょうど精神的にもきつい時だった。
誰とも約束があったわけではなかったし、仕事を忘れてのんびりできるかなとアレクセイの誘いに軽く返事をした。
ハンスとは以前アレクセイがオースティンのCOTAで行われたF1レースで優勝した時以来だったが、ケンを歓迎してくれた。
ニューヨークの厳しい暑さから逃れ、穏やかなモンテカルロの夏は確かに疲れ切ったケンの心身を癒してくれるようだった。
スーツ姿の印象があったハンスだが、白いシャツにコットンパンツ、サングラスと、なかなかのイケメンガイで現れ、モンテカルロの高台にあり、地中海やモンテカルロの街を見渡せる素晴らしいロケーションのヴィラへ、三人を招待してくれた。
既にハンスは一週間ほどを彼の家族とともに過ごしていて、エントランスから続く広い庭では、大きなグレートデンの傍を、まるで絵画の中から飛び出した天使のような、ちょろちょろ走り回るヨハンとよちよち歩きのエミールの手を引いたブリュンヒルデが出迎えた。
二階にはそれぞれバスルームのついたゲストルームが三つあり、そのうちの一番広い部屋をアレクセイとロジァが、一つをケンが使わせてもらうことになったのだが、どの部屋もシックで洗練され、とても居心地のいい空間だった。
一見して四人が四人とも見事な金髪碧眼ゲルマン人な、理想的で幸せな家族としか見えないこの一家だったが、ニューヨークからの三人が来て一日ほど一緒にいただけで、やがてブリュンヒルデとその息子たちはミュンヘンへと帰って行った。
子供たちの影が消えると、ヴィラは一気に静まりかえった。
グレートデンのクラウスも心なしか寂しげに庭に佇んでいた。
ミュンヘンからは部下のゲミンゲンが同行していて、彼は一階にある執事室を使っていたが、他にメイドなども雇わず、午後に馴染みのハウスキーパーに来てもらって掃除などをしてもらう時だけ、みんなが部屋を追い出された。
食事は街に出るか、食糧を街で調達してくるかどちらかだというので、翌日からロジァとケンがパンを買いに行っている間、朝はアレクセイが料理の腕を振るった。
二日目に焼いたパイを、お茶の時間にハウスキーパーのエディスにもふるまったところ、もともとアレクセイの出現に感激していた彼女には泣かんばかりに喜ばれた。
ロジァは好きなバンドのライブがあるというのでモンテカルロ行きを決めたらしかったが、来てみれば水上スキーやウインドサーフィンに夢中で、アレクセイはロジァのやることなすこと冷や汗をかく保護者になってしまって、日中は少しも落ち着いていられないようだった。
その代り夜になれば、アレクセイがクラブやカジノに足を踏み入れようものなら、彼の周りをたくさんの男女が取り巻くので、ハンスがうまく彼らからアレクセイを救い出すといった感じだったが、そういった非日常的なこともケンには息抜きになった。
ケンは日中ハンスのヨットでのんびりクルージングで過ごし、夜は地中海の風を感じられるテラスバーでゆったりグラスを傾けたりした。
そんな時、ハンスが隣に来て、サラリと自分の離婚のことなどを話し出した。
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