東京へ行こう 38

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「何故、ロウエルはケンに恋人の縁者だということを話さなかったのか」
 ケンの心の中を見透かしたようにアレクセイが呟いた。
「無理やりミステリーにしないでくださいよ」
 アレクセイに抗議したのは純だった。
「あれれ」
 後ろに突っ立っている純をアレクセイは見上げた。
「今、一瞬ドッペルゲンガーかと思った、ケンの」
「科学者とは思えない発言ですよ」
「ほら、可愛い顔して、サラリときついこと言ってくれるし、まるでケンそのもの」
「お前って、ほんとしあわせなやつだな」
 笑っているアレクセイにケンは呆れた顔を向けた。
「だからさ、この世にいない人間のことはもう勝手に想像するしかないわけだし、要はお前がどう受け止めるかだけの話だってこと」
「いつになくまともな答えだな」
「俺はいつもまともに決まってる!」
 ケンは笑みを浮かべ、改めてアレクセイがただ華やかで金銭感覚のないだけの人間じゃない、自分のことをわかってくれている人間なのだと再認識する。
「まあ、腐れ縁だけあるよな」
 ケンの呟きにアレクセイは笑ってグラスの酒を飲み乾した。
「わ、犬だ!」
 享の声にケンは振り返った。
 享は千恵美と一緒にロジァの持っているタブレットを覗き込んでいる。
「よう、ジョー、元気そうじゃん」
 ロジァが呼びかけると、ワンと犬がほえる声が聞こえた。
「ジョー?」
 ケンはロジァの後ろからタブレットの画面を覗き込んだ。
 すると向こうもケンの声を聞き取ったのか、今度は甘えるようにキュウキュウ言っている。
「こら、重いっての、ジョー」
 画面の向こうでマットが大きな犬をかぶったような状態で、声をあげた。
「こらこら、ジョー、いい子にしてろ。すまないな、マット」
 ジョーを嗜めようと呼びかけるのだが、久しぶりに見たジョーに、ケンの声はつい甘くなる。
 ケンもタブレットや携帯で顔を見ることもできたのだが、里心がつきそうであえて見ないでいた。
「明後日には帰るからな」
「ご心配なく、ってより、何でロジァがそっちにいるんだよ」
「パリに飽きて、今朝東京に来たんだ。城が見たくて、ホテルのオヤジに聞いて行ってみたけど、跡しきゃなくて、つまんねかった」
 ぶーたれるロジァにマットは笑った。
「何しに行ったんだよ、んでいつまでいんの?」
「明日の午後、ハンスのジェットで帰る」
「お城って、江戸城跡に行ったの?」
 千恵美が割って入った。
「お、可愛い! 誰?」
 画面の向こうでマットが俄然目を輝かせる。
「ケンの従妹」とマットに答えてから、「江戸城? っつったかなー」とロジァは千恵美に言った。
「もっと早くわかってたら、一緒に名古屋城とか行けたのに」
「名古屋城? ちゃんとした城?」
「ちゃんとしたお城。ここから新幹線で一時間半くらい」
「じゃ、明日の朝、行く!」
 はしゃいだ声を上げるロジァに、「十時に起きてちゃ、まず無理だ。諦めろ」とアレクセイがにべもなく言い放つ。
「うーん、朝早く起きても、午後の便じゃ、難しいね。また今度来た時に案内するよ」
 千恵美に諭されて、ロジァは「ちぇ」とちょっと拗ねるが、「んじゃ、千恵美らがニューヨーク来たときは、俺が案内するからな」と偉そうに言った。
「うん、よろしくね!」
「ケンのうちは広いから、二十人くらい来ても余裕だぜ」
「え、そんな、広いの?」
「庭にヘリが降りられるくらいには広い」
「えーーーー!!」
 享と千恵美が声を揃える。
「こらこら、ロジァ、盛り過ぎてるぞ」
 ケンが言った。
「事実じゃん」
 ロジャが答えた後、画面の向こうからまたジョーのキュウキュウ言う声が聞こえ、鼻面が画面にアップしたと思うと、ブチッと画面が消えた。

 


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