続いて良太は鑑定書を開いたが、石がどういうものかが書かれているようだが、やはりそうなんですかということしかわからない。
「京助の知り合いで元GIAにいた人やから、鑑定は正確や思うで」
「GIA?」
良太は鑑定書から顔をあげて千雪を見た。
「米国宝石学会」
「はあ、そうなんですね」
良太は鑑定書、鑑別書の次に、追記のように書いてある文章を読んだ。
「非常にクォリティの高いビジョンブラッドです、って書いてあるけど、二カラットってこのくらいの大きさってことですか?」
「そやない?」
「ってか、クォリティの高いビジョンブラッドってどういう?」
「まあ、本物やいうことやろ? きれいやし」
「やっぱ、ホンモノ………」
その事実を突きつけられると、良太はあからさまにがっくりする。
「あの、これってつまり、いくらくらいのシロモノなんですか? そのクォリティの高いビジョンブラッドってやつ」
「周りにダイヤもついとおるから、真ん中の石が多分三百万くらいで、総額三百五十万くらいやて話」
サラリと言う千雪を良太はまじまじと見つめた。
「さんびゃく…って、俺、普通にポケット入れて歩けないでしょうが!」
「俺に文句言うても。ポケットやのうて、バッグに入れとったらええんちゃう?」
はあ、と良太は今日何度目かのため息を吐く。
「そういう問題じゃなくて……やっぱ金庫とか買わないとかな」
「何で? 良太んとこ、警備員もいはるし、そうそう空き巣が入るようなとこやないやろ」
「ってか、何で俺がこんなもんもってなくちゃならないかって話で」
工藤に言ったところでてんで話にならない。
自分の母親なのに、会ったこともない知らない人間の写真を持ってたって何の意味もないだろう、などと言って全く取り合わない。
「お前がもらったんならお前が持っていればいいだろうとかって、渡そうと思っても工藤さん、意に介さないし」
「まあ、引き出しの奥にでも入れといたらええやん」
それしかないだろうが、そもそも三百万なんぞというシロモノを持ち歩くのが嫌な良太なのだ。
「はあ、まあ、とにかく、ありがとうございました。鑑定料は明日にでも振り込みます」
そこでようやく、そうだここでうだうだしてるわけにはいかなかったのだと、良太は面倒なミッションを思い出した。
「えっと、そろそろ出ますか?」
「ああ、そやな」
良太はレジに立って支払いを済ませると、「工藤にもたまには顔を出すように言ってください」と夏川が出てきて言った。
「はい、伝えます。ご馳走様でした」
店内は満席で、客層は様々だが、おおよそ笑顔を見せている。
美味しいし、雰囲気も落ち着いているし、スタッフのサービスも行き届いている。
「ええ感じやな、何より美味いし」
店を出ると千雪が言った。
こうやってリピーターも増えているのだろう。
「ええっと、すみません、一か所付き合ってもらいたいところがあるんですが」
千雪を車に乗せて数分、赤信号で止まった時、良太は言った。
「ああ?」
怪訝そうに千雪は良太を振り返った。
「どこへや? お前、まさか」
その時ちょうど青になったので、良太はアクセルを踏んだ。
スタジオの駐車場に車を滑り込ませた良太がエンジンを切ったところで、「良太、ほんまに工藤さん踏襲しよるな! 騙し討ちやで」と腕組みをした千雪がのたまった。
「まあまあ、時間あるんでしょ? ちょっと覗くだけですし」
「こいつ、開き直りよったな? 前は工藤と一緒にすなて訂正しよったのに」
「ほら、降りてください」
千雪の発言を無視して助手席に回った良太がドアを開けた。
「今日はジャージやないし」
「いつも、何かの時用に黒縁メガネ持ってるでしょ? ポケットに」
「良太に対する認識を変えなあかんな」
仕方なく車を降りた千雪は冷ややかに良太を睨む。
この際、千雪に睨まれようが、認識を新たにされようが構ってはいられない。
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