しかも良太の提案したキャスティングがほぼ全面的に取り上げられ、特に天野右京の抜擢は局のプロデューサー連の好評を得た。
「事務所に打診したところ、快諾頂けそうな感触でした。が、万が一天野さんがダメな場合、アサノエンターテインメントの中村清吾さん、光プロダクションの大友雄太さんを考えています」
「この、刑事四ノ宮の相棒役の新人刑事には、アダチスタジオの牧隆三さんて、どうなんですか?」
チーフプロデューサーの田中が聞いてきた。
「はい、端役であちこち顔を出しておられるようです。以前のドラマでも拝見していましたが、大柄で落ち着いた雰囲気で、案外甘いマスクの持ち主で、新人刑事には向いているのではないかと思います」
「なるほど」
髭をたくわえた田中は四十代で工藤より若干年上だという。
結局会議が終了するまでには工藤は間に合わなかったが、良太の知名度も以前より波及しており、昔のように、君、出演者じゃないの、などという質問をされることも少なくなった。
会議室を出た良太が、早速スカイプロモーションの船岡に連絡を入れると、天野は翌日から舞台で大阪だというので、今日の内ならということで、五時にアポを取った。
さらにアダチスタジオにも連絡を入れたが、牧への出演交渉はもちろんOKです、というマネージャーの田ノ本の機嫌のいい返事が返ってきた。
監督は端田武と大澤流主演の老弁護士シリーズでもメガホンを取る山根、脚本は同じく久保田だ。
二人とは良太も付き合いが長くなってきた。
「良太ちゃん、またよろしく」
会議室の外で電話をしていた良太が携帯を着ると山根がやって来て言った。
「あ、こちらこそ、よろしくお願いします」
「頭の中は今のドラマでコンフュージョンなんだけどね」
「え、そんな。ハハハ」
「でも、今度の検事シリーズも結構本格的で面白いよね」
「はい。原作全部読みましたが、六条検事がかなり厳しい感じで、でもたまに人間味もあるんで救われるかなとか」
「そうそう、法医学の准教授って出てくるだろ、六条検事の元恋人って設定だけど、あれ、絶対工藤さんだと思わない?」
良太は笑った。
確かに。
やたら怒鳴り散らすところとか、口が悪いとか、もろパワハラだと思われるが、鑑定には一部の隙も見せない凄腕の法医学者、美並一臣。
どうやら六条と美並は別れても互いに意識しているという設定だが、二人ともそれぞれ過去に重いものを抱えている、らしい。
法医学者という設定だから、てっきり京助がモデルだろうと思った良太だが、人となりを読んでいくと、やはり工藤に近いような気がする。
「何、今日は工藤さんどこだって?」
「はあ、沖縄から間に合うように駆けつけるはずだったんですけどね」
「相変わらず忙しい人だな」
山根と別れ、良太は三軒茶屋にあるスカイプロモーションへと車を走らせた。
にしても工藤、どうしたんだろう。
会議が終わるまでに戻るって言ってたのに。
連絡もないので、良太は少し心配になる。
ビルのエントランスに入ったところで、ポケットの携帯が鳴った。
「今、羽田だ。爆弾騒ぎでなかなか飛ばないし、全く」
「爆弾!? 大丈夫なんですか?」
良太は思わず声を上げた。
「ああ、那覇でどこかのバカが飛行機に爆弾仕掛けただわの喚いて、捕まったんだが、機を乗り換えたりしてたからな。今、どこだ?」
不機嫌そうな声で工藤が言った。
会議の最中だったのだろう、そんな事件があったことも知らなかった。
とにかく、工藤が無事でよかった、と、はあっと一つ大きく溜息をついてから、「今、スカイプロモーションです」と、良太は会議の内容など経緯をざっと説明した。
「わかった。俺はとりあえずオフィスに戻る」
「はい、気を付けてくださいよ」
良太の言葉が終わらないうちに携帯は切れた。
「ったく、たまにはちゃんと俺の声を最後まで聞けよ!」
携帯に向って無駄だと思いながら口に出すと、すれ違った男が妙な顔をして良太を見た。
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