春雷48

back  next  top  Novels


 高輪にある工藤の部屋は、何だか生活感もなく、良太もたまにマンションの中に入っているスポーツクラブに連れて行ってもらったりしたが、どちらかというと高輪の方が別宅のような気がしている。
 屋上プールは最高だったけどな。
 昼は開いているが、夜はドーム型の天井から空が見えるのだ。
 全体が緩やかなくの字になっているマンションは高層というほどではなく、東棟と南棟は十二階まで、中央棟は十一階に屋上プールを持つスポーツクラブがあり、マンションの住人であれば利用できるようになっている。
 このマンションは、鴻池産業系列の不動産会社が管理している。
 税金対策のためもあって、工藤が曽祖父から相続した横浜にあった土地や屋敷、いくつかのビルを売った工藤は、大学からMBCまでの先輩にあたる鴻池物産社長の鴻池に勧められて東棟のペントハウスを購入したらしい。
 青山プロダクションのビルを建てたのも同じ頃だ。
 工藤の曽祖父はもともとが広く土地を所有していた地主で、商才があったのだろう始めた貿易会社も確かな業績を挙げ、当時はかなりの資産家だったようだ。
 だが、一人娘がヤクザの組長と結婚してからは会社も閉め、やがて工藤の母親を引き取った曽祖父母は横浜の屋敷や軽井沢でひっそりと暮らしていたらしい。
 これは良太が平造から聞いた話で、平造も工藤を可愛がっていた当時の顧問弁護士から聞いたという。
「俺もいい加減可愛げのないガキだったが、じいさんもあまり笑わない人だった。まあ、手塩にかけて育てた娘や孫娘の体たらくを目の当たりにすれば、俺なぞに期待もなかったろう、バカをやっても怒られたこともない代わりに、冷たい視線を向けられるのが関の山だった」
 工藤は曽祖父母のことはほんのたまに口にするくらいで、懐かしむというよりはぼやきのようなものだ。
 だが、これも良太が平造経由で聞いた話だが、顧問弁護士によると、曽祖父母にとっては娘も孫もさらに工藤に至っても大切な存在だったはずだという。
 いつか工藤が菓子を作ってくれたという曾祖母の話をしていたが、少なくとも慈愛の情を工藤に注いでいたに違いない。
「でもひいおばあちゃんとか、俺なんか存在すら知らないもんな」
 ボソリと呟いた良太だが、高輪というと未だに良太にとっては天敵のような鴻池の顔が見え隠れするのが、そもそも高輪のマンションを好きになれない要因なのだ。
 大学の先輩で工藤はよくしてもらったというが、実際鴻池と相対した良太からみると、工藤に対して異様な執着があるのだ。
 だから工藤がよりによって良太なんかと付き合っていることが気に入らず、良太を排除して自分が理想とする相手を工藤にくっつけようとしたわけだ。
 当時は工藤も鴻池のお陰でMBCでも一通りの仕事ができたと恩義を感じていて、まさかそんなことをするとは思いもよらなかったようで、最初は良太が鴻池の策略を工藤に進言しても信用されなかった。
 良太は鴻池が何をしようと工藤に信用されないことがひどく悔しく、同時に自分の存在はその程度なのだと思い情けなかった。
 だが良太の話が事実だとわかると、工藤は鴻池に反旗を翻し、絶縁状をつきつけた。
 ところがやはりこれも執着故だろう、今度は工藤に対して下手に出た鴻池は工藤の機嫌をとるように未だに性懲りもなく、工藤のスポンサーとしてバックアップの手をゆるめない。
 妻子もあるし、容姿も頭脳も並外れている鴻池が、唯一、工藤にだけは嫌われたくないらしい。
「歪んだ愛情表現だよな」
 苦い思いをさせられた良太は以来鴻池と顔をあわせることはまれだ。
「祖母といい鴻池といい、工藤の周りには変なやつらばっか」
 つらつら考えながら炬燵に潜っていた良太は、真夜中過ぎ、夢うつつに隣の部屋のドアが開いた気配を感じていたが、しばらくして目を覚ますと隣へのドアをノックしてみた。
 返事はなかったが、良太はそっと隣の部屋に入り、寝室を覗いてみると工藤はもう寝ていたので起こさないように離れた。
 朝になったら、パンのミルク煮でも作ってやろう。
 傍らの椅子にあった脱ぎ捨てたのだろう服をポールハンガーに掛けると、良太はまたそっと自分の部屋に戻った。
 朝、目を覚ました良太はドアをノックしてから隣へ行ってみた。

 


back  next  top  Novels

にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説へ
にほんブログ村
いつもありがとうございます