春雷56

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「うわ、よかった、埠頭のロケ、夕べで」
 思わず良太は窓の外の雪を見ながら口にする。
「そうなんだ、よかったね」
 直子は頷きながら、抱えてきた大きな袋からラッピングされたプレゼントを次々と取り出した。
「ごめんねえ、何か仕分けが大変そうなところへまた増やしちゃって」
 良太には、グルーミングキットなの、とブルーの袋にシルバーのリボンが掛かった包みを手渡した。
「ウフ、良太ちゃん、きれいになってね」
「ありがとう」
 鈴木さんには今評判のパティセリーのワッフルセットを渡し、工藤には、ラム酒なのとテーブルに置いた。
「あれ、今日はモリーは?」
「うん、電球が切れかけてて、買いに行ってもらってる」
「そっか。じゃ、これ、渡してね。直のお気にのバンドなんだ」
 大きさからしてDVDのようだ。
 スキー合宿でも、森村と直子は音楽のことで盛り上がっていた。
「はい、直ちゃん、ミルクティよ」
 大テーブルは今日、プレゼントの山になっているので、真ん中にあるテーブルセットの方に、鈴木さんがロールケーキと一緒にミルクティの入ったカップを置いた。
「わーい、ありがとう」
「良太ちゃんも一休みしましょ」
「ありがとうございます」
 良太は仕分け作業を一旦中断すると、直子の向かいに座った。
「そだ、今夜、良太ちゃんも行くんでしょ? ピアノのコンサート」
「うん、ちょっと無理かも……」
 良太は口ごもる。
「ええ、そうなの?」
「また、どんなだったか、聞かせてよ。桐島さんのピアノ」
「うん、わかった」
 それにしても工藤はまだ寝ているのだろうか。
 思ったより具合が悪かったりして、大丈夫だろうか。
 俄かに心配になって、良太は気もそぞろに、パクパクとロールケーキを平らげる。 
 すると、良太の上着のポケットで、携帯が鳴った。
 ワルキューレは工藤からの電話にセットしてある。
「あ、はい、お疲れ様です」
「お前は今日、ホールへ何時に来られるんだ」
「え、あ、俺は……」
「チケット、お前が持ってるんだろうが」
「あ、じゃあ、始まる三十分前には。ってか、工藤さん、風邪、大丈夫なんですか?」
 良太は眉を顰めて聞いた。
 工藤の声はまだ完全ではない。
「昨日まる一日寝てたんだ。十分だろう」
 ってことは、少なくともインフルエンザじゃなかったんだろうな。
 良太は工藤の言葉から判断する。
 すると工藤の背後から、「工藤様、どうぞこちらへ」という声がする。
「え、今どこです?」
 相手はこのクソ寒い雪の日に出歩いたらまた風邪がぶり返すだろうが、という良太の心の声が聞こえるような輩ではない。
「ヤザキ製菓だ。このあと、美聖堂に回る」
 これだよ。
「ちゃんと薬とか飲みました? 昼は食べたんですか?」
「ああ」
 いつものごとくブチっと切れる。
 もはや呆れて溜息しか出ない。
「薬って、工藤さん、風邪とか?」
 直子が心配顔で聞いた。
「うん、昨日はだから珍しく寝てたんだけど、もう今日は動いてるし」
「ワーカホリックってさ、もうそれ自体ほぼ、病気だもんね。佐々木ちゃんもね、二日ほど前、風邪引いちゃってさ、でもほら、八木沼っちのCM撮影、共演の女優が不倫騒動で降りたもんだから代役探して撮り直しもあったりして、すぐムリするし」
 唇を尖らせて直子が言った。
「ああ、そういえば平野璃子って、結局不倫認めたって?」
 時折プラグインの藤堂から緊急情報が良太にも入ってくる。
 お陰でヤバそうな俳優は除外できているが、中には意外な人気俳優の名前もあったりするので、ドラマのキャスティングは戦々恐々だ。
「そう、相手はHTVのプロデューサーだって。二十近くも離れてるのにさ、妻子ありだし。平野って可愛くて清楚そうだったのに、イメージダウン必須ね」
「でも撮影入ったばっかだからまだよかったんじゃない?」
「そうね。でも、結構しわ寄せ来たから佐々木ちゃんにも。仕事しないわけにいかないっていうから、手塚センセ呼びつけて、何とか乗り切ったっていうか。しかも沢村っちまで押しかけちゃって」
 そこまで言うと、直子がフフフと思い出し笑いをする。
「いつも二人きりで静かなオフィスがさ、手塚センセ、息子さんまでついてくるもんだから、しかも沢村っちと鉢合わせして、おかしいったら」

 


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