「あ、そうだ、もしかして、だけど、ツワモノの女優陣が約二名ほど、工藤さんにプレゼント持って現れるかもだから、まあ、そんないつも鉢合わせとかないと思うけど」
「はい」
森村は良太の説明にあまり納得がいかないようすで返事をする。
良太は森村に歩み寄るとこそっと囁いた。
「まあ、適当にあしらって」
「got it!」
森村は親指を立ててウインクを返す。
「いけね」
慌てて駐車場に降りた良太は、車に乗り込んでエンジンをかけた。
「そうなんだよなあ」
良太はハンドルを切りながら呟く。
「去年は、ナンカ調子に乗って、サングラスとか、わざわざ買いに行ったんだけどな」
折に触れ、工藤へ何かやろうかどうしようかと、良太は決めかねていた。
夏の工藤の誕生日とクリスマスには、盆暮れのお中元お歳暮に名を変えて、工藤行きつけのバーに酒を置いてもらっている。
だが、バレンタインデーなる日のプレゼントということは、まあ、愛を込めてみたいな要素があるわけで、良太としてはいささか躊躇や恥じらいもあったりするわけだ。
やはり何もやらないのもどうかと思い、どさくさに紛れるように、工藤宛のプレゼントの山に母親からのブランデーケーキと一緒に紛れ込ませることにした。
佳乃や他の誰かのように高価なプレゼントは用意できないが、工藤の好きなラム酒くらいなら何とかなる。
信号が変わると、良太は事務所のある表参道へとアクセルを踏む。
そういや、工藤、サッサと携帯切っちゃうから、佳乃さんのこと伝えそびれたじゃん。
「ま、俺が伝えなくても、連絡取り合ってるよな」
余計なお世話だと言われそうなことを、わざわざしなくてもいいか、そんなことを考えると良太はちょっとまた胸がチクリと痛くなった。
表参道の事務所では案外早く打ち合わせが終わった。
ベテラン俳優の平岩孝次だけでなく、マネージャーや社長も現れて良太を歓待してくれた上に、平岩がもともと人を笑わせるのが好きなな人だったので、楽し気な雰囲気で終始した。
あちこちのドラマやCMに顔を出す人だけあって、平岩の顔は全国的に老若男女問わず知られているだろう。
ちょうど父親くらいの年で、良太も初めて会った気がせず、つられて笑っていた。
事務所を出た時まだ時間があったので、近くにある紀伊国屋ショップでラム酒を買うと、急ぎ会社に取って返した。
森村は今夜は波多野と会うらしかったし、鈴木さんはコンサートのために既にオフィスを出ていた。
ラッピングはないが、母親が送ってきた袋に一緒に入れて、工藤宛のプレゼントの山に紛れ込ませた。
案の定、山の中には黒川真帆や山之辺芽久からのものもドンと置かれている。
工藤は読まずに捨ててしまって構わないなどと言うが、何か重要なことが書かれているかも知れないので、私信でもカードも読まないわけにいかなかったが、山之辺はパリにいるらしいことや、黒川はロケで東京にいないらしいことくらいで、大したことは書いてなかった。
「だから、俺にわざわざ送って来るなよ」
と思わず呟いたのは、沢村からの、ハートマーク付きの良太ちゃんへカードがわざわざ見えるようにくっついた箱入りワインがあったからだ。
鈴木さんのメモによると、亜弓からもネクタイが届いていたし、藤堂さんも例年にもれず寄ってくれたようで、美味しそうなお菓子が冷蔵庫に入っているとのことだった。
それ以外にも業者さんからや業界関係者からも良太宛に届いたプレゼントの数は前年を上回っていた。
「ううう、これまた、お返しが大変だよな」
また呟いた良太は、はたと壁の時計を見て、また慌ててオフィスを飛び出した。
開演まであと一時間、表参道乗り換えで約十五分、地下鉄の方が早いだろうと良太は階段を駆け下りた。
半蔵門ホールのロビーはかなりな人でざわめいていた。
桐島宛の花は青山プロダクションからと工藤の名前で楽屋に届けてあるはずだ。
老若男女、カップルが多いのはバレンタインデーだからか。
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