七時を回っているが出前を受けてくれたので、カツ丼を二つと玉子丼を警備員のところに持って来てくれるように頼むと、警備員の携帯を呼び出した。
「お疲れ様です。工藤ですが、今出前頼んだんで、そこまで取りに行きます。広田さんも召し上がって下さい」
今日の担当警備員、広田は、工藤が会社を立ち上げた時からこの会社に派遣されているベテランだ。
吉岡警備保障は鴻池に紹介された会社で、元警察官の広田は会社の役員待遇だが、未だに実務にあたっている。
たまにこうして食事や土産を差し入れをしたりしているが、最近は鈴木さんや良太に任せきりだった。
「すみません、今日はお菓子やなんかもいただいたのに」
下に降りて行くと、広田は緊張を緩め、人の好さそうな顔で恐縮した。
「いや、こちらこそ、押し付けてしまって申し訳ないが、せっかくもらっても食べきれないんで」
「うちのやつも娘も、いつも喜んでますから、ありがとうございます」
アラフィフの広田は妻と大学生の娘の三人家族で、代々木に住んでいるのだとは鈴木さん情報だ。
岡持を持って部屋に上がると、リビングのテーブルにカツ丼と玉子丼を取り出し、湯を沸かしてポットにティーバッグでお茶を入れる。
良太を呼びに行くと、スウェットの下だけでバスルームから出てきたところだった。
「風呂なんか入ったのか」
工藤が文句を言うと、「結構汗かいたし、熱い湯に浸かったから」と良太はバスタオルで髪を拭く。
「メシが来たぞ」
「はーい」
頭にざっとドライヤーをかけてスウェットを着た良太は、隣へのドアを開けた途端、カツ丼の美味そうな匂いにいそいそとリビングのテーブルに着いた。
「いただきます」
案の定、食べている最中に携帯に電話が入ったりするものの、たまにはこうやって工藤と一緒に食事をするのがいいよな、などと思うと普通のカツ丼までがやけに美味い気がする。
「明日、六条渉、の打ち合わせ、俺が行く」
「え、ヤザキ製菓は? 明日はもう動けると思うけど」
絶対工藤のスケジュールを狂わせているに違いないと、良太は申し訳なさそうに工藤を見た。
「ヤザキは明後日になった。まあ、状況を見て何なら一緒に行けばいい」
最近あまり一緒に動くことがないから、工藤のさり気ない言葉に良太の中では申し訳なさより嬉しさが勝ってしまう。
カツ丼をぺろりと平らげてお茶を飲んでいる良太を見ると、この分ならもう大丈夫かと工藤は苦笑した。
「シーツを換えるから、ちょっと待ってろ」
工藤はバスルームの戸棚からシーツを取ってくると、ベッドのシーツを剥がして取り替える。
「そういやプリンがあるぞ。食うか?」
頬づえをついてぼんやりしていた良太は「食べる!」と大きく頷いた。
工藤は食べ終えた丼をシンクに運ぶと、冷蔵庫からプリンを取り出し、スプーンと一緒に良太の前に置いた。
「喰ったらベッドに入ってちゃんと寝ろよ」
良太に言い聞かせて工藤はバスルームに向った。
工藤にプリンまで買わせて、かいがいしく世話を焼かせていることがこそばゆい気がしないでもないが、それが佳乃でも千雪でも競って工藤にプレゼントを送ってくる女優陣でもなく自分だということで、良太は少しだけ勝ったような気になってくる。
いつものコンビニのプリンを味わって食べた良太は、シンクに置いてある食器をざっと洗ってからベッドに向かう。
このベッドは良太のベッドより大きいからか心地よく、ぐっすり眠っていたのだが、目を閉じるとまだいくらでも眠れそうだ。
工藤が横に入ってきたのは真夜中近くになってからだ。
ボソボソと電話で、今夜は遠慮しておきます、というような声を良太は夢うつつに聞いていた。
「用があるんなら行けば? 子どもじゃないし俺一人でも眠れるし」
「藤田さんだ。飲みに誘われただけだ」
工藤はポンと良太の頭に手を置いた。
「ああ、そうだ。お前、高輪のスポーツクラブに連絡しといたから、これから水曜か金曜、行ってちょっと身体を絞ってこい」
「ええ? 俺別に太ってないし」
良太は心外だと工藤を振り返る。
「フン、太るどころか薄っぺらだ」
「余計なお世話だっ!」
良太はすぐにむくれた。
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