「どういうつもりって、そりゃ…」
志央のきれいな笑顔を頭に浮かべ、にんまりした七海に、勝浩が畳み掛けるように続ける。
「あのさ、君のためを思って言うんだけど…会長には深入りしないほうがいいよ」
「え?」
七海は勝浩の真剣な眼差しをまともに見つめた。
「城島志央、学内の人間ならたいてい、高嶺の花で崇め奉ってるんだ。言い寄ってくやつなんて吐いて捨てるほどいるんだぞ。けど城島志央が本気で相手にするわけないだろ? 理事長の孫だし」
「そうだよなー。きれーだもんなー、あの人」
たまたま七海と同じクラスになった勝浩は、昼休みの七海の行動を怪訝な顔で見ていたのだが、どうやら志央に夢中になっているようすの七海にいたたまれず、忠告してみたというわけだ。
だが七海のほうはまるで夢見ごこちだ。
これは聞く耳を持たないな。
密かに勝浩は嘆息する。
二人のことは最近ちょっとした騒ぎになっていた。
学内では仮面をかぶって、幸也以外誰かをそばに置いた試しがない志央が、七海と親しくしているのが、勝浩としては妙に気になるのだ。
七海が転校してきて教壇に立ったときは、その図体の大きさに圧倒され、しかも五部刈りの茶髪頭だ、クラスはしーんと一瞬静まり返った。
とんでもないやつが入ってきた、とみんなびびったに違いない。
だが、「えっと、皆さん、仲良くしてください」なんて、今時小学生でも言わないような自己紹介をして、五部刈り頭をしきりと掻きながら照れくさそうに笑った途端、クラス内の緊張が一気に解けた。
しかもどうやら困っている者にはすぐ手をさしのべないではいられない性格らしい。
「藤原くーん、視聴覚室から資料運ぶの手伝ってぇ」
「おー」
外国生活が長かった所以か、女の子が重いものを持っているなんて時はあたりまえのように。
お人よしの七海は文句を言うでもなく、みんなに都合よく使われている。
女の子がそんな七海のことを、忠犬ナナ公、などと面白がっているのも勝浩は知っている。
それより城島志央はとんでもない遊び人なんだと、勝浩はこそっと呟くが、もう七海の背中に届くわけがなかった。
「今日の肉じゃが、ぜっっっったい、うまいです。太鼓判押します!」
「ヘー、そりゃはやく食べたいな。でも、七海に食わせてもらってばかりじゃ悪いし。今度は俺が何かごちそうするよ」
貢物には抵抗がない志央だが、さすがに毎日毎日負担させていることに少しばかり罪の意識が疼く。
何せ下心あってのことなのだから。
「そんなの、俺が作りたくて作ってるんですから、志央さんは気にしなくていいんです。志央さんが喜んでくださればそれで…」
いつものように屋上に続く階段を上がり、ドアを開けた。
途端、ギャッという人の叫び声。
「これ、持ってて!」
「え、おい」
七海は弁当を志央に押しつけたと思うと、屋上に飛び出していく。
慌てて七海の後に続いて屋上に出た志央の目には、走っていく七海の向こうにひとかたまりの男たちが見えた。
「何だぁ? てめーっ」
「…んのヤローっ!」
応戦しようとした数人の男たちを、七海はあっという間に軽く殴り倒した。
「七海!」
志央の声に、殴られた男たちがむっくり起き上がり、志央の横をあたふたと散っていく。
「おい、ちょっと待て! お前ら!」
相手は生徒会長だ。
待てといって待つわけがない。
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